昆虫亀

森功次(もりのりひで)の日記&業務報告です。

写真新世紀の公開審査会に行って来ました。

今日は、ちょっと私的な日記です。
興奮気味に書きます。


今日、写真新世紀http://web.canon.jp/scsa/newcosmos/concept/index.html)の公開審査会に行って来ました。
友達がグランプリ候補に選ばれてたというのもありますが、もうすこし自分の研究的にも興味があるイベントだったので。


前々から「写真賞を選ぶときには、撮った人に審査会場で制作意図とかを説明させることがある」というのを聞いてて、ちょっとおもしろい業界だなーと思っていたのです。
音楽とか映画とかでは、まずありえん審査の仕方なのですね。
今回は、まぁそういう昔からの関心と、たまたま友達が候補の一人だったというのもあって、ちょっと行ってみるかー、という感じで行きました。
(ゼミさぼりました。ごめんなさい。)



はじめに感想を言っておくと、自分が最近「批評とはどのような行為なのか*1」という問題に関心を持っていたこともあって、今回の公開審査会はとてもおもしろいイベントでした。
まぁあまりわたし審査会とか行ったの初めてなので、以下はかなり素朴な感想になることをお断りしておきますが、作家にその場で作品を語らせると、こんなに観方が変わるのかーというのはとても新鮮でした。正直、かなりガッカリしたところもある。
この作品いいなー、と思ってのに、いざ作家が説明するとほんっとゲンナリする、というのはちょっと不思議な体験でした。ここまでガッカリさせてくれるのか、お前!みたいな。
逆に、ぜんぜん良いと思ってなかった作品が、作家の説明や講評などを聞くうちに、どんどんいい作品に思えてくるというのは、ダイナミックな良い体験でした。
作品の評価というのが、非常にさまざまなファクターにのっかっているのがよくわかります。
そして批評の役割というのが、よくわかりました。



ちょっと研究の関心から言えば、そもそも審査員に写真家が入っているのも、よくよく考えるとよくわからないのです。スポーツでは名選手が名監督になるとは限らない、というのはよく言われます。
今回の公開審査会でも、写真家の方々の評価の仕方・基準はほんとバラバラでした。
ボキャブラリーが豊かな人もいれば、直観重視のひともいるし。そして、そのどれが適切な評価なのかも判別しがたいのです。
ただひとつ言うと、写真家のひとたちは「俺はこれが好き」みたいな軸で語りがちだったのに対して、椹木野衣、清水穣のお二人は、どこか客観的な軸を用意しようとしていた向きもありました。とりわけ椹木さんは、作家の狙いがどこにあるのか、その狙いは成功してるのか、みたいなのを確かめようとしてる感じを受けました。
また、作品の評価の仕方も「写真の可能性を切り開く」という軸で見てる人もいれば、「やっぱり美しい作品がいい」みたいな軸もあって、面白かったです。
そのへんの評価の仕方のバラエティさは、とても興味深く、そういうのを突きつける点で、公開審査会というのは非常に面白いイベントだと思います。



今回は、半ば、作家を個人的に知ってたこともあり、その点でいろいろおもしろい面も見えました。
「300歳くらいの人が撮ったかのような写真」「でもどこか少女っぽい」とかいろんな講評がなされてましたが、作家個人を知ってる身からすると、あまりにも的確な分析で、「なんで写真観ただけで、こんなに本人のこと分かるのよ!?」ってビビりました。
すぐれた批評家とは何か、というのを見せつけられた気もします。背筋がゾッとしました。
逆に「キミのことを他の人にどう紹介したらいいか分かんないんだよね」みたいなことを言ってたのは、「それ考えるのが批評家の仕事やないんかー」と突っ込みたくもなりましたが。



作品評価のしかたにいろんな軸があるのは当然ですが、そのなかにも評価の客観性を訴えやすい軸と、かなり主観に偏りがちな軸との違いが今日はよく見えたし、そのせめぎ合いと探りあいみたいなのがとても良く現れていたと思います。
この写真新世紀というイベントが、新人発掘を目的としているイベントでもあったせいで、いろいろ評価軸が複雑だったと思います。審査員の方々で、その目的がちゃんと共有されてたかもわからないし、そもそも評価軸なんて共有できるものなのか、という問題もあります。批評ってほんと難しいです。
芸術哲学やってる身としては、非常にエキサイティングなイベントでした。
来年も行ってみたい。






最終的には、友達だった原田要介氏がグランプリに選ばれました(http://web.canon.jp/pressrelease/2012/p2012nov09j.html)。おめでとうございます。
おかげで僕としては、ますますどう評価したらいいのかわからんイベントになってしまったわけですが。




最終的には、審査はかなりモメたようです。発表が20分くらい押しました。正直難しかったと思います。
僕自身、原田の写真はとても良いものだと思ってましたし、その点については会場のほとんどのひとも審査員の方々も同意すると思います。
ただ、「どこかで見た感じの写真」という講評もあり、その点がどう評価されるのかなー、と迷うところもありました。
原田の写真はあまりにもオーソドックスな良い写真で、「写真の可能性を広げる」という軸では評価しづらいものだったと思います。
そして作品に微妙な「暗さ」もあり、正直、今後写真の仕事を彼に頼んでいいものかどうか、という点から見れば、他の候補者のほうが良かったところもあると思います。
原田の写真の良さは、ひとに説明しづらいのです。
でも良い写真なのは、確実に言えると思います。講評のときも彼に対してだけ、審査員が皆「いい写真だし実力もすごいんだけど」という前提で話してた感じでした。
審査評も「今回は大きな未知数、既知数ではなく、極めてオーソドックスな写真を写真新世紀のグランプリとして選出した」と書いてます。
1200人以上の応募者から「オーソドックスな写真」という評価でグランプリを取るというのは、ものすごいことです。



ともかく今夜は、もっと写真見慣れてる人々に評価を聞きたい気持ちでいっぱいです。
自分が普段写真を見慣れてないだけに、なおさら。
こんなに評価に自信がないのに、いろいろと語りたくなる作品というのは生まれて初めてかもしれません。
普段なら「お前らこれマジでいい作品だから見ろ!」と言えるのですが。
わからん。ほんとにわからん。
自分の無力さを痛感します。



なかば本人を知ってるだけに、この人が今後どうなるのかも、マジでよくわかりません。
期待半分、心配半分です。つげ義春的な作家になるかもしれない。写真やめるんじゃないかという不安もある。


恵比寿の写真美術館で11月18日まで見れます。無料。
みんな行ってみてください。感想を聞きたいです。




では。おやすみなさい。
明日早いのに、寝れるかわかりません。
祝杯も挙げれて、良い日でした。Canonに感謝。

*1:批評とは何か、というのは近年の芸術哲学のなかでも一大トピックで、最近ではNoell CarrollやJames Grantなどが論じています。俺も研究計画としては再来年その研究をやることになってる・・・。