昆虫亀

森功次(もりのりひで)の日記&業務報告です。

【翻訳が出ました】ロペス、ナナイ、リグル『なぜ美を気にかけるのか:感性的生活からの哲学入門』

翻訳が出ました。

 

ドミニク・マカイヴァー・ロペス、ベンス・ナナイ、ニック・リグル著

『なぜ美を気にかけるのか:感性的生活からの哲学入門』

森功次訳、勁草書房、2023年

 

原著はDominic McIver Lopes, Bence Nanay, Nick Riggle. Aesthetic Life and Why It Matters, Oxford University Press, 2022

(原著刊行の翌年に翻訳刊行です。早い!)

 

ステッカー『分析美学入門』、キャロル『批評について』に続く、3冊目の翻訳です。よろしくお願いします。

ジュンク堂池袋本店では「1階話題書アカデミック塔」のところにも並べれられているそうです。ありがたい。

 

 

以下、この本および関連情報の紹介です。

 

本書であつかわれる問題は、次のようなものです。

知識とか道徳の面では完璧な世界であっても、美や感動がなかったら、つまらない、退屈な世界になる。なぜ美や美的価値は大事なのか? なぜわたしたちは美を気にかけるのか?

本書では、現代美学を代表する論者3人が、この問いに取り組みます。

  • ナナイは「達成」という観点から、
  • リグルは「共同体」という観点から、
  • ロペスは「冒険」という観点から、

この問いに答えようとしています。

「気持ちいいから」「心地よいから」「進化論的に大事だから」みたいな単純な答えではないところが、この本のミソです。

 

本書は、学部の初年次教育用に書かれたテクストです。なので、基本的には、専門的な背景知識なしでも読めるようになっています。

授業用テクストなので冒頭に「教員向けのノート」というのがついてるんですが、ここは哲学初学者には情報が詰まりすぎている感もあるので、最初は飛ばして最後に読んでもいいと思います。本書の理解を広げる面白い補助線がたくさん引いてあるところなんですけどね。

 

 

本の最後には「ブレイクアウト」のパートがついていて、ここでは、著者3人たちがさらに話題を広げながら対談をやっています。扱われるテーマは、「意見対立」「主観主義」「民族中心主義」「流行(ファッション)」「美の神話」です。

この箇所はとても面白いし大事な教訓がいろいろと書かれているので、美学・芸術学の授業をやる先生はぜひ読んで下さい

 

 

「なぜ美を気にかけるのか」という問い自体はすごく素朴なものですが、この問いが現代美学においてどのような位置づけにあるのか、という点については訳者あとがきで少し解説しました。

「訳者あとがき」はすでに勁草書房のHPで公開されてます。

https://keisobiblio.com/2023/07/18/atogakitachiyomi_nazebi/

現代分析美学では、この問いをめぐってけっこう熱い論争状況が生まれています。本書は学部生の初年次教育のために書かれた本ですし、特に背景知識なしでも読める本ですが、専門家はまた違った角度から楽しめると思います*1

 

8月末に発売の『フィルカル』Vol.8, No.2には、「あとがき」とはまた別の観点から本書の解説・紹介記事を書いています。出るのはまだすこし先(8月末)になりますが、興味ある人はどうぞ。

※フィルカルのこの号は特集「作者の意図、再訪」(第2回)など、いろいろな話題をあつかっていて面白いのでオススメです。

 

 

 

ひとつ告知です。

美学会東部会の特別例会として、本書の刊行イベントをやることになりました。

 

美学会東部会特別例会

『なぜ美を気にかけるのか:感性的生活からの哲学入門』翻訳刊行記念ワークショップ

8月28日(月)19:00より、オンラインにて開催(zoom)

 

登壇者:
森功次(訳者、大妻女子大学
田中均(コメンテーター、大阪大学
銭清弘(コメンテーター、東京大学

 

 

無料で誰でも参加可能です。学会の例会イベントという形にはなっていますが、一般の人でも聞けるものなので、興味ある人はぜひどうぞ。学会の広報イベント的な側面もあるので、僕はできるだけ非専門家を意識した話をするつもりです(まぁ美学会という学会自体、半分以上のメンバーは哲学の非専門家なんですが)。

詳しい情報はこちらをみて下さい。zoomリンクなどもこちらにあります。

東部会例会 - 美学会

 

 

詳細な目次はこちらにまとめました(こういう詳細目次って、出版社も出さないんですよね。なぜ?)。

目次を見るとわかりますが、リグルのパートは「食べ物」が大きなテーマになってます。料理・食事の哲学に興味がある人はぜひ呼んでみて下さい。

 

ドミニク・マカイヴァー・ロペス、ベンス・ナナイ、ニック・リグル

『なぜ美を気にかけるのか:感性的生活からの哲学入門』

森功次訳、勁草書房、2023年

Dominic McIver Lopes, Bence Nanay, Nick Riggle,

Aesthetic Life and Why It Matters,

Oxford University Press, 2022

 

目次

 

教師向けのノート

イントロダクション

1.あなたの美的生活

2.美学版ソクラテスの問い

3.気を配るのはなぜか

 

1.経験を解き放つ(ベンス・ナナイ)

1.美的なことがらに気を配るのはなぜか

 1.1 第一の答え――わたしたちは美的なことがらに気を配っていない

 1.2 第二の答え――わたしたちは美的なことがらよりも娯楽に気を配っている

 1.3 第三の答え――わたしたちが美的なことがらに気を配るのは他人に良く思われるためだ

 1.4 第四の答え――わたしたちが気を配るのは自分にほれぼれしたいからだ

 1.5 第五の答え――わたしたちが気を配っているのは美的判断だ

 1.6 第六の答え――わたしたちが気を配っているのは美的経験だ

2.達成としての美的経験

3.社会の接着剤としての美的経験

 

2.美的生活――個性、自由、共同体(ニック・リグル)

1.~なき世界?

2.食べ物

3.美的価値

  3.1 個性

  3.2 自由

  3.3 共同体

 

3.足を踏み入れる――美的生活における冒険(ドミニク・マカイヴァー・ロペス)

1.違い

2.複数の観点

3.多元主義

4.冒険

5.論証

6.社会学

補遺:細部の説明

 

ブレイクアウト  

1.意見対立

2.主観主義

3.民族中心主義

4.流行

5.美の神話

 

訳者あとがき  

 

 

では。

また何か思いついたら、追加で解説記事を書くかもです。

 

 

 

ついでに近況報告

*1:なお、あとがきでも触れているナナイのHPの業績表はこちらです。

https://bencenanay.com/publ.htm