論文が出ました。
森功次(2020)「芸術作品のカテゴリーと作者性―「なぜ会田誠の絵をVOCA展に出してはいけないのか」」『人間生活文化研究』No.30
2015年の美学会(早稲田大学)で発表したやつをブラッシュアップして論文化したものです。
2015年のVOCA展で、奥村雄樹さんが会田誠に絵を描いてもらって出品しようとしたところ、実行委員会側から出品を拒否された、という事件がありました。
この論文は、分析美学の議論を用いつつその事件を分析し、そこから芸術哲学に関する考察を行ってみる、というものです。
分析美学の応用チャレンジ論文とも言える。
下記から無料ダウンロード可です
http://journal.otsuma.ac.jp/2020no30/2020_457_1.pdf(pdf)
2015年にこの事件について知って「お、ここにはなんかすごく面白い美学的パズルがあるぞー!」と気づいて、慌てて美学会に発表申し込みをしたんですが、今となってはよい思い出です。見切り発車で発表申し込みしておくのも悪くはないですね。
いえーい、これでお蔵入りしかけていた論文の救済ができたぞー。
この論文で言及した作品は奥村さんのHPにそれぞれ紹介があるので、リンクを貼っておきます。論文読む前に見とくといいかもですね。
《現代美術の展望はどこにある?》
http://yukiokumura.com/works/voca2015/where.html
《くうそうかいぼうがく》
http://yukiokumura.com/works/af/ws.html
《くうそうかいぼうがく》ワークショップ企画書
http://yukiokumura.com/works/af/ws/AnatomyFictionProposal.pdf
あと奥村さんが今回の事件の顛末を記した冊子はNADiffで売ってます。
奥村雄樹『なぜ会田誠の絵をVOCA展に出してはいけないのか』(2015)
http://www.nadiff-online.com/?pid=88299444
当時のtogetterもあります。
なおこの論文では、冒頭で奥村さん@oqoomを「コンセプチュアル・アーティスト」と呼んでしまってるんですが、すでに本人からその言い方には違和感がある、とツッコミが入ってます。
奥村さんは最近noteでコンセプチュアル・アートの基礎文献をいろいろ翻訳してくれてるので、そちらもオススメです。
https://note.com/conpercipient
追記:
松永くんが本論を読む上での非常に良い補助線をツイートしてくれてましたので、こっちにも転記しておきます。
最近の個人的関心からongoingな文化への哲学的アプローチの実例として読んだ。たとえば社会学者(という括りが適切かはともかく)であれば「事務局は実際にどんな動機や理屈で出品を拒否したか」みたいな問いになるだろうけど、哲学者の問いはたぶん一般にそういうかたちにならない https://t.co/6rQtkFjOYa
— matsunaga (@zmzizm) 2020年7月8日
この論文の問いは「仮に事務局の理屈を筋の通ったものとして解釈するとすれば、それはどのようして可能か」「そこからどういう帰結が出てくるか」みたいになっていて、実際になされたことというよりも、その実践の前提になっているであろう概念やそこから導かれる概念的な問題のほうに焦点がある
— matsunaga (@zmzizm) July 8, 2020
なので個別のケースを理解できてうれしいというのではなく、それを踏み台にして作者性の帰属とか複数人が関わる制作のバリエーションの整理みたいな一般的な論点についての理解が得られてうれしいという感じになってる。分析美学的なうれしさとは何かがわかりやすい
— matsunaga (@zmzizm) July 8, 2020
この種の読み方に慣れてるかどうかで、この論文への評価は大きく変わると思います。美術史的な読み方で読むと、何が面白いのかわからないかもしれない(じっさい発表後は、全然面白くない、という反応もいくつかもらったし)。