『分析美学入門』解説エントリ、続きです。
今回は第7章以降のトピックで日本語で読める分析美学の文献紹介をしていきます。
翻訳は相変わらずあまりないですが、日本語の論考はまとめたらそれなりに数ありますね。
webから取れるものも多いです。
第7章 意味解釈と作者の意図
このトピックでは、最近『美学』に河合大介さんの論文が出ました。
- 河合大介(2012)「現実意図主義の暇疵」『美学』63(2), 1-12,
これに関して似たような議論は、言語哲学や言語学の領域でたくさんなされてきたはずなので、そっちの領域に何かいい論文があるのかもしれません。何かあったらお知らせ下さい。
まぁ言語学に関しては最近良質の解説書が出たので、それを読むのが一番いいのかもしれません。高いけど。
- アラン・クルーズ『言語における意味』片岡宏仁訳、東京電機大学出版局、2012
第8章 フィクション
フィクションについては日本人が書いた著作が二冊あります。
この章と次の章あたりが、いちばん邦語文献で蓄積あるんじゃないでしょうか。
- 清塚邦彦『フィクションの哲学』勁草書房、2009
- 三浦俊彦『虚構世界の存在論』勁草書房、1995*1
あとそんなに分析美学に特化しているわけでもないけど、基礎文献としては
- 西村清和『フィクションの美学』勁草書房、1993
を挙げておきましょうか。
論文単位でも結構あります。とりあえず目についたものを、いくつか挙げておきます。
フィクションとは何か、というトピックでは、
- 清塚邦彦「虚構概念の哲学的分析 : 予備的な考察」2005、http://repo.lib.yamagata-u.ac.jp/handle/123456789/2901
- 田村均「虚構制作の根源性 : ケンダル・ウォルトンの虚構論」2013、http://ir.nul.nagoya-u.ac.jp/jspui/handle/2237/17716
- 田村均「虚構の語りと言語行為論」2012、http://ir.nul.nagoya-u.ac.jp/jspui/handle/2237/16777
フィクションのパラドックスについては
- 清塚邦彦「実在しない事柄をよろこび、かなしむこと ――フィクションのパラドックスをめぐって」『思索 = Meditations 』(45) (1), 85-108 これはweb上にはupされてない様子。
あと拙稿
- 森功次「ウォルトンのフィクション論における情動の問題 : Walton, Fiction, Emotion」http://d.hatena.ne.jp/conchucame/20111103
フィクションの意味論については、これも言語哲学方面にたくさん蓄積はありそうだけども、とりあえず藤川さんのを挙げておく。
- 藤川直也「直接指示論とフィクションにおける名前」2008、http://repository.kulib.kyoto-u.ac.jp/dspace/handle/2433/96271
あとはこういう本も。もうあまり美学関係ないけど。
- グレアム・プリースト『存在しないものに向かって: 志向性の論理と形而上学』久木田水生、藤川直也訳2011、
あとはサールとかですかね。サールについては翻訳も論文もいくつかあります。
9章 画像知覚
このあたりはなんというかもう清塚無双って感じ。
- 清塚邦彦「写真のリアリティと演技的な態度」2008 http://repo.lib.yamagata-u.ac.jp/handle/123456789/6912
- 清塚邦彦「写真とメディア : K・L・ウォルトンの写真論を手がかりに(シンポジウム「画像とメディアの哲学」)」2007、http://ci.nii.ac.jp/naid/110006952100
- 清塚邦彦「ネルソン・グッドマンの記号論(2):Pictorial Representationの分析を中心に」2004、http://repo.lib.yamagata-u.ac.jp/handle/123456789/6476
- 清塚邦彦「写真を通して物を見ること : K・L・ウォルトンの透明性テーゼをめぐって」2003、http://repo.lib.yamagata-u.ac.jp/handle/123456789/2868
- 清塚邦彦「絵画的な描写について:哲学的分析」2002、http://repo.lib.yamagata-u.ac.jp/handle/123456789/2855
- 清塚邦彦「像と模像 : 絵画的描写の概念をめぐって」1999、http://ci.nii.ac.jp/naid/110003739406
ただこれはupされてないっぽい。
ちょっと画像知覚からは話それるけど、これも挙げときます。
- 河田学「フィクション・語り手・視点──映画における「カメラ目線」の問題を手がかりに」http://www.kyoto-seika.ac.jp/researchlab/wp/wp-content/uploads/kiyo/pdf-data/no34/kawada_manabu.pdf
あと画像関連では、ウォルハイムのフォーマリズム批判論文の翻訳が読めるので、これも興味ある人はどうぞ。
- リチャード・ウォルハイム「フォーマリズムとは何か」金悠美訳『美術フォーラム21』第2号、2000
あとこれも分析美学に特化してはないですが、いちおう挙げときましょう。高いけど、画像を観る経験についていろんな視点で考えさせてくれる悪くない本なので。
- 西村清和『イメージの修辞学―ことばと形象の交叉』三元社、2009
10章 情動表現
ここでも最近の議論を扱っているのは清塚先生の論文くらい。 嘘でした。長岡都さんというかたが結構いろいろと研究されてる様子。
恥ずかしながらわたし知りませんでした。
- 清塚邦彦「絵画における感情の表現について : 哲学的な分析」2007、http://repo.lib.yamagata-u.ac.jp/handle/123456789/6502
ただ昔の『美学』にもいくつかこういう問題を扱っているのはあります。
とりあえずこれを挙げときます。
- 伊藤制子「現代音楽における表現 : 表現主体の観点から」1995 http://ci.nii.ac.jp/naid/110003714145
- 渡辺裕「音楽表現とメタファ:「この旋律は悲しい」の構造」『美学』36(3)、1985 こっちはリポジトリ上がってなかった。
他にもこの時代はこの音楽の情動についての議論ははやってたので、いくつか論文があるはずです。
あとは『美学』に載ったミューの論文紹介
- ピーター・ミュー「音楽に於ける情動の表現」, Peter Mew; 《The Expression of Emotion in Music》, British Journal of Aesthetics, vol.25, No.1, Winter 1985, pp.33-43 http://ci.nii.ac.jp/naid/110003713787
※追記
田邉くんから情報提供がありました
音楽に関しては永岡都さん(昭和女子大)が、分析美学の議論を活用した論文を書いています。
- 永岡都「音楽における感情と表現(1)」2007 http://ci.nii.ac.jp/naid/110006424505
- 永岡都「音楽における意味・感情・表現 : 音楽美学からのアプローチ(<小特集>何故音楽は心に響くのか?:音楽への科学的アプローチの現状)」2006 http://ci.nii.ac.jp/naid/110004789120
- 永岡都「音楽的意味の生成と音楽における感情の機能(1) : L. B.マイヤーとP.キヴィによる音楽的感情の解釈をめぐって」 2004http://ci.nii.ac.jp/naid/110004688583
調べたところ、この長岡さんが関わってる本でこういう本もありますね。
心理学系の本かとおもって手出してませんでしたが、結構面白そうです。
・『音楽と感情の心理学』2008、誠信書房
http://gyouseki.swu.ac.jp/swuhp/KgApp?chosyouid=ymkdygobggy&chosyoseq=96
長岡さんのページはこちら
http://gyouseki.swu.ac.jp/swuhp/KgApp?kyoinId=ymkdygobggy
この章の議論と最近の心理学はけっこうつながりがありそうですが、わたしあまり追えてません。
面白そうですね。
第11章 芸術的価値
私の知る限り、この辺は、あまり分析美学の議論をあつかった論文はないと思います。(何かあったら教えて下さい。)
私以前、このトピックで立命館でレクチャーして資料挙げてます。 http://d.hatena.ne.jp/conchucame/20111203
まぁ芸術の価値なんてものは、美学者たちがけっこうずっと扱ってきた問題なので、分析美学に話を限定しなければ良質の論文はたくさんあるでしょう。ひとつだけ挙げておきます。
- 佐々木健一「藝術の価値原理 : 近世美学史の一断面」1993 http://ci.nii.ac.jp/naid/110003714062
第12章、価値と価値との相互作用――美的価値、倫理的価値、芸術的価値
ここも私の知る限り、分析美学的な議論をあつかった論文はあまりありません。まぁキャッチーなテーマですし、不道徳な芸術については多方面の分野でいろいろ蓄積があると思いますから、英語圏哲学に限らず何か良い論考があれば紹介していただきたいです。
前のエントリで挙げた西村清和の本では、一部このトピックを扱っています。
あとは拙稿。論文集の一部なのでupできないのですが。
- 森功次「作品の倫理性が芸術的価値にもたらす影響――不完全な倫理主義を目指して」2012 in『批評理論と社会理論1:アイステーシス』 http://d.hatena.ne.jp/conchucame/20111102/p1
ちなみに分析美学ではないですが、わたしサルトル研究の文脈でこういう論文を書きました。
- 森功次「サルトル『聖ジュネ』における不道徳作品の「善用」http://ci.nii.ac.jp/naid/110009480104
UPされてないけど、欲しい人いたら連絡下さい。あげますので。
第13章 建築の価値
これについては翻訳が一冊あります。
- ロジャー・スクルートン『建築美学』阿部公正訳、丸善、1985
ただ他には分析美学関連の議論をあつかったものは、わたしはあまり知りません。
ただこの13章は、建築についての章となってますが、サブテーマは「ある形式はどうやったら芸術形式たりうるか」というものです。
このトピックに関していえば、ビデオゲームの観点から最近良質の論文が出ました。みなさん読みましょう。
- 松永伸司「ビデオゲームは芸術か?」(『カリスタ』第19号、2012年) http://9bit.99ing.net/Entry/29/
今回は以上です。
次回は気が向いたら続きます。
ちょっと最近忙しいので、次がいつになるかは未定です。
誤植表は随時アップデートされております。本書を読まれる前にぜひいちどご確認ください。→ → 『分析美学入門』正誤表
*1:この本については飯田先生が『科学哲学』に書評を書いてる https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpssj1968/29/0/29_0_195/_pdf