昆虫亀

森功次(もりのりひで)の日記&業務報告です。

『分析美学入門』解説エントリ、その4、日本語で読める分析美学2

『分析美学入門』解説エントリ、続きです。
今回は第7章以降のトピックで日本語で読める分析美学の文献紹介をしていきます。
翻訳は相変わらずあまりないですが、日本語の論考はまとめたらそれなりに数ありますね。
webから取れるものも多いです。




第7章 意味解釈と作者の意図
このトピックでは、最近『美学』に河合大介さんの論文が出ました。

これに関して似たような議論は、言語哲学言語学の領域でたくさんなされてきたはずなので、そっちの領域に何かいい論文があるのかもしれません。何かあったらお知らせ下さい。
まぁ言語学に関しては最近良質の解説書が出たので、それを読むのが一番いいのかもしれません。高いけど。

第8章 フィクション

フィクションについては日本人が書いた著作が二冊あります。
この章と次の章あたりが、いちばん邦語文献で蓄積あるんじゃないでしょうか。


あとそんなに分析美学に特化しているわけでもないけど、基礎文献としては

を挙げておきましょうか。

論文単位でも結構あります。とりあえず目についたものを、いくつか挙げておきます。

フィクションとは何か、というトピックでは、

フィクションのパラドックスについては

  • 清塚邦彦「実在しない事柄をよろこび、かなしむこと ――フィクションのパラドックスをめぐって」『思索 = Meditations 』(45) (1), 85-108 これはweb上にはupされてない様子。

あと拙稿

フィクションの意味論については、これも言語哲学方面にたくさん蓄積はありそうだけども、とりあえず藤川さんのを挙げておく。

あとはこういう本も。もうあまり美学関係ないけど。

  • グレアム・プリースト『存在しないものに向かって: 志向性の論理と形而上学』久木田水生、藤川直也訳2011、

あとはサールとかですかね。サールについては翻訳も論文もいくつかあります。



9章 画像知覚

このあたりはなんというかもう清塚無双って感じ。

ただこれはupされてないっぽい。

ちょっと画像知覚からは話それるけど、これも挙げときます。

あと画像関連では、ウォルハイムのフォーマリズム批判論文の翻訳が読めるので、これも興味ある人はどうぞ。

  • リチャード・ウォルハイム「フォーマリズムとは何か」金悠美訳『美術フォーラム21』第2号、2000

あとこれも分析美学に特化してはないですが、いちおう挙げときましょう。高いけど、画像を観る経験についていろんな視点で考えさせてくれる悪くない本なので。

10章 情動表現

ここでも最近の議論を扱っているのは清塚先生の論文くらい。 嘘でした。長岡都さんというかたが結構いろいろと研究されてる様子。
恥ずかしながらわたし知りませんでした。

ただ昔の『美学』にもいくつかこういう問題を扱っているのはあります。

とりあえずこれを挙げときます。

  • 伊藤制子「現代音楽における表現 : 表現主体の観点から」1995 http://ci.nii.ac.jp/naid/110003714145
  • 渡辺裕「音楽表現とメタファ:「この旋律は悲しい」の構造」『美学』36(3)、1985 こっちはリポジトリ上がってなかった。

他にもこの時代はこの音楽の情動についての議論ははやってたので、いくつか論文があるはずです。

あとは『美学』に載ったミューの論文紹介

※追記
田邉くんから情報提供がありました

音楽に関しては永岡都さん(昭和女子大)が、分析美学の議論を活用した論文を書いています。

調べたところ、この長岡さんが関わってる本でこういう本もありますね。
心理学系の本かとおもって手出してませんでしたが、結構面白そうです。
『音楽と感情の心理学』2008、誠信書房
http://gyouseki.swu.ac.jp/swuhp/KgApp?chosyouid=ymkdygobggy&chosyoseq=96


長岡さんのページはこちら
http://gyouseki.swu.ac.jp/swuhp/KgApp?kyoinId=ymkdygobggy


この章の議論と最近の心理学はけっこうつながりがありそうですが、わたしあまり追えてません。
面白そうですね。




第11章 芸術的価値

私の知る限り、この辺は、あまり分析美学の議論をあつかった論文はないと思います。(何かあったら教えて下さい。)
私以前、このトピックで立命館でレクチャーして資料挙げてます。 http://d.hatena.ne.jp/conchucame/20111203

まぁ芸術の価値なんてものは、美学者たちがけっこうずっと扱ってきた問題なので、分析美学に話を限定しなければ良質の論文はたくさんあるでしょう。ひとつだけ挙げておきます。

第12章、価値と価値との相互作用――美的価値、倫理的価値、芸術的価値

ここも私の知る限り、分析美学的な議論をあつかった論文はあまりありません。まぁキャッチーなテーマですし、不道徳な芸術については多方面の分野でいろいろ蓄積があると思いますから、英語圏哲学に限らず何か良い論考があれば紹介していただきたいです。

前のエントリで挙げた西村清和の本では、一部このトピックを扱っています。

あとは拙稿。論文集の一部なのでupできないのですが。

ちなみに分析美学ではないですが、わたしサルトル研究の文脈でこういう論文を書きました。

UPされてないけど、欲しい人いたら連絡下さい。あげますので。



第13章 建築の価値

これについては翻訳が一冊あります。

  • ロジャー・スクルートン『建築美学』阿部公正訳、丸善、1985

ただ他には分析美学関連の議論をあつかったものは、わたしはあまり知りません。
ただこの13章は、建築についての章となってますが、サブテーマは「ある形式はどうやったら芸術形式たりうるか」というものです。
このトピックに関していえば、ビデオゲームの観点から最近良質の論文が出ました。みなさん読みましょう。


今回は以上です。



次回は気が向いたら続きます。
ちょっと最近忙しいので、次がいつになるかは未定です。



誤植表は随時アップデートされております。本書を読まれる前にぜひいちどご確認ください。→ → 『分析美学入門』正誤表





*1:この本については飯田先生が『科学哲学』に書評を書いてる https://www.jstage.jst.go.jp/article/jpssj1968/29/0/29_0_195/_pdf