昆虫亀

森功次(もりのりひで)の日記&業務報告です。

分析美学の教科書紹介

三日前の「分析美学を学べる大学2011年度」のなかで予告していた、分析美学の教科書の紹介です。

一応お伝えしておきますが、わたしはここに紹介する本の記述すべてを読み込んだわけではないです。
(そんなに教科書ばっか読んどるわけにもいかんのです。わたくし、たんなる一研究者でして、教科書マニアじゃない。)
なので、間違いもあるかもしれません。
そして、かなり主観も入ってます。
そこんとこよろしくお願いします。


イントロダクション
じゃあ、まずは入門書から。
今から挙げていくいくつかの本は、どれもたくさんの著者が集まって書いてる入門書です。
なので、各章の著者によって読みやすさや、難易度は変わります。

  ※2012/01/14追記
   日本語の入門書についてはこちらのエントリを参照⇒


一番のおすすめはこれです。

The Routledge Companion to Aesthetics (Routledge Philosophy Companions)The Routledge Companion to Aesthetics (Routledge Philosophy Companions)
Dominic Lopes

Routledge 2005-07-28
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この本のいいところ。

  • トピックが網羅的です。
  • 記述も初学者向けに書かれてます。

悪いところ。

  • 重い(705ページ)

西洋古典(プラトンアリストテレス、中世美学)だけでなく、いわゆる大陸系哲学(ヘーゲルニーチェハイデガーサルトルメルロ=ポンティ)などにも項を割かれてるところにも特徴があります。あと、後半部ではフェミニスト美学などもきっちりフォローしているあたりは良いです。
とりあえず、何を研究しようか決めてない学部生とか、いいんじゃないでしょうか。



※2012/12/19追記

2013/4月末に、第三版が出るようです。

主な変更点はこんな感じ

  • 歴史の部では、アドルノ(Ted Gracyk)、ベンヤミン(Martin Donougho)、ウォルハイム(Derek Matravers)の章が増えました。
  • 美学理論の部では、Categories of art(David Davies)、Art and evolution(Mohan Matthen)の章が増えました。また、Pictorial representationの章がなくなり、Depiction (Catharine Abell)の章になりました。
  • ほかには、Art and religion(Gordon Graham)、Poetry (Peter Lamarque)、Videogames (Grant Tavinor)、Comics(Aaron Meskin)、Design(Glenn Parsons)の章が増えました。
  • 中世美学の章をJohn Haldaneが、ハイデガーの章をThomas E. Wartenbergが、The aestheticの章をJames Shelleyが、Beautyの章を Rafael De Clercqが、Criticismの章をJonathan Gilmoreが、Photographyの章をDawn M. Wilsonが、Sculpture の章をSherri Irvinが、Musicの章をAndrew Kaniaが、それぞれ書き換えてます。また、Imagination and make-believe の章が、Gregory Currie and Anna Ichinoとの共著になりました。


見ての通り、ちょっとした変化ではなく、かなり変わってます。
第一版から第二版への変化をかんがえれば、この新版も「買い」でいいんじゃないでしょうか。
目次はコチラで見れます→





似たようなタイプにこれがあります。

The Oxford Handbook Of Aesthetics (Oxford Handbooks Series)The Oxford Handbook Of Aesthetics (Oxford Handbooks Series)
Jerrold Levinson

Oxford Univ Pr (Txt) 2005-04-07
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良いところ

  • ちょっと本気出す人向け。院生向け、といってもいいのかな?

悪いところ

  • 重い(821ページ)。あと初心者には、ちょっと難しい項も。とはいえ、院生レベルならここから始めるのもアリ。

もうちょっと本気出すひとには、こういうのもあります(美学全般というよりは、「芸術の定義」論争に特化してますが、20世紀の分析美学の流れを垣間見れる本ではあります)。

Theories of Art TodayTheories of Art Today
Noel Carroll

Univ of Wisconsin Pr 2000-03
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良いところ

  • 芸術の定義に関してけっこう専門的な議論が読める。
  • ついでに20世紀の分析美学の流れがちょっとわかる。(「フィクションとは何か」みたいな問題については学べませんが。)
  • 薄い。
  • 寄稿してるメンツが良い。
  • キャロルのイントロダクションがなかなか良い。

悪いところ

  • ちょっと古い。

あとは、ディスカッション形式で書かれたやつもあります。

Contemporary Debates in Aesthetics and the Philosophy of Art (Contemporary Debates in Philosophy)Contemporary Debates in Aesthetics and the Philosophy of Art (Contemporary Debates in Philosophy)
Mathew Kieran

Wiley-Blackwell 2005-09-12
売り上げランキング : 250960

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が、これは各項の質がピンキリ過ぎるので、最初に手を出すのはあまりおすすめしません。
興味のあるトピックが定まったときに、その問題に関する論争状況を知るために当該箇所を読めばいいんじゃないかなという気がします。




アンソロジー
では、次にアンソロジーに行きます。
正直、アンソロジーは、けっこうどれも似たような感じで、そんなに大差無い気もします。
とはいえ、まぁこれは定番。

Aesthetics and the Philosophy of Art: The Analytic Tradition: An Anthology (Blackwell Philosophy Anthologies)Aesthetics and the Philosophy of Art: The Analytic Tradition: An Anthology (Blackwell Philosophy Anthologies)
Peter Lamarque

Wiley-Blackwell 2003-11-03
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分析美学に特化したアンソロジーで、セレクションも悪くないです。(ただ、ウォルハイムの論文はムズイ)
ちょっと文句をつけるとすると、内容的に、ちょっと収録論文が古いです。80年代のものが中心。(とはいえ、どれも超古典なので、研究者は必読なものばかりです。そういう意味では、一家に一冊レベル。)


※2012/02/23追記
いちおう書評(http://aesthetics-online.org/reviews/index.php?reviews_id=43)では
「美的経験(aesthetic experience)についての論文が無い」
認知科学の知見をとりいれた論文がない」
「執筆陣があまりに男性に偏っている」といった点が、弱点として挙げられてますが、ベタベタに褒めた上でのひねり出した弱点指摘って感じですので、まぁ問題ない気もします。
やっぱり量・質的にも、このアンソロジーが一番オススメなんじゃないでしょうか。特に英米系の分析美学を勉強したいのであれば。
46本も収録してるし、一論文100円以下!
、と思ってたら、いまみたら円安のせいかamazon.jpでの値段がどんどん上がってますね。むかしは3600円くらいで買えたんだけども。
いまは4960円!




あとは、これとか

Aesthetics: A Comprehensive Anthology (Blackwell Philosophy Anthologies)Aesthetics: A Comprehensive Anthology (Blackwell Philosophy Anthologies)
Steven M. Cahn

Wiley-Blackwell 2007-10-09
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まぁこれは古典から収録してて、幅広いですが、目次だけ見ればいい気もする・・・。



ひとつ、これはちょっとアリかも、というのでは

Reading Aesthetics and Philosophy of Art: Selected Texts with Interactive Commentary (Reading Philosophy)Reading Aesthetics and Philosophy of Art: Selected Texts with Interactive Commentary (Reading Philosophy)
Christopher Janaway

Wiley-Blackwell 2005-10-17
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収録論文は、オーソドックスなものばかりなんですが、各論文にコメンタリーがついてます。
詳細に内容検討したい人にとっては、ちょっと勉強になるかも。


あと、実はけっこうオススメなのがこれです。

Aesthetics Today: A Reader (Elements of Philosophy)Aesthetics Today: A Reader (Elements of Philosophy)
Robert Stecker

Rowman & Littlefield Pub Inc 2010-06
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収録論文が新しいので、最新の議論を学べます。
あとこのアンソロジー、論文をフルヴァージョンで収録してるんじゃなくて、個別の論文のさらに一部だけ収録してるんですね。(こういうのができるのは、主張と議論がはっきりしている分析系哲学のいいところ。)
こういうの嫌いな人もいるとは思いますが、議論の内容をつかむには、アリな気もします。
各章のイントロの解説もなかなか良いです。
(実はこの本、あとで挙げるSteckerのAesthetics and the Philosophy of art: 2nd editionと対応関係の章立てになってます。)


似たような抜粋型のリーダーにはこれもあります。

Aesthetics: A Reader in Philosophy of the Arts (2nd Edition)Aesthetics: A Reader in Philosophy of the Arts (2nd Edition)
David Goldblatt Lee B. Brown

Prentice Hall 2004-06-04
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ただ、ちょっと抜粋しすぎな感じ。
あと解説もあまりない。そして、ちょっと高い。
目次と出典は参考にはなりますがー、、、という評価。


※2012/04/23追記
第三版が出てました。

Davies, Tavinor, Gracyk, Kaniaなどの論文が追加された模様。
こちらで目次確認できますね。
メディアごとの章立てになっていて「絵画」「写真と映画」「建築と3次元のもの」「音楽」「文学」「パフォーマンス」「ポピュラーアートと日常の美学」「古典論文」「現代の論文」となってます。
http://www.pearsonhighered.com/educator/product/Aesthetics/9780205017034.page



ちょっと古いけど、Feaginが編んだやつもあります。

岡倉天心とか谷崎潤一郎とかが入ってて、なんじゃぁ!?って感じなのですが、まぁ目次だけ見ればよいかと。古いし。




だいたいこういうアンソロジーはたくさん買わなくてもいいし、大学に所属してるひとだったら、大抵の論文は電子ジャーナルでダウンロードできたりします。
ただそういう事情を考慮しても、Blackwellのやつは「買い」かと。内容が素晴らしいですし、コピー代的にも(ただしiPadなどで読みたい人は除く)。
ひとつアドバイスしておくと、こういうアンソロジーは各章の冒頭についてるIntroductionを読むのが意外と勉強になったりするので、オススメです*1




事典
あと、こちらは、すこし項目が細かい事典的なやつです。

A Companion to Aesthetics (Blackwell Companions to Philosophy)A Companion to Aesthetics (Blackwell Companions to Philosophy)
Stephen Davies

Wiley-Blackwell 2009-05-12
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第二版になって、内容もアップデートされました。
ただ、事典なので、初学者がいきなりこれ買うのは、やめたほうがいいと思います。(事典マニアにはおすすめですが。)
そして、調べ物するのにも、使いにくいし、正直つかいどころがよくわかりません。
そして高い……。
研究室に一冊あればいいんじゃないかなーという評価。(俺買ってしもーたけど!そしてうちの研究室には第一版しかないよ!)




次に、個人で書かれた入門書です。
三冊挙げます。

まず、Noel Carroll

Philosophy of Art: A Contemporary Introduction (Routledge Contemporary Introductions to Philosophy)Philosophy of Art: A Contemporary Introduction (Routledge Contemporary Introductions to Philosophy)
Noël Carroll

Routledge 1999-10
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記述としては、かなり読みやすいと思います。
「そもそも、哲学って何よ?」みたいなところから、話が始まります。
ほんと入門者向け。薄いです。


つぎに、Stephen Davies

The Philosophy of Art (Foundations of the Philosophy of the Arts)The Philosophy of Art (Foundations of the Philosophy of the Arts)
Stephen Davies

Wiley-Blackwell 2006-02-20
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これも、初学者向けです。
読みやすさはキャロルのほうが上かなーという気もしますが、好みの問題かもしれません。
とはいえ、どちらも、書き下ろしなんで、読みやすくは書いてくれてます。
あとけっこう新しいという点も良い。

ただ、どちらも、どの主張を誰がどこで言ったというのをあまりきちんと書いてくれてないので、そこからさらに研究しようという人には、向かないかもしれません。あとどちらも、内容的にちょっと薄い。



で、三冊目が、今翻訳中のSteckerです。2005年に第一版が出ましたが、ちょっと章立てを変えて、第二版が出ました。

Aesthetics and the Philosophy of Art: An Introduction (Elements of Philosophy)Aesthetics and the Philosophy of Art: An Introduction (Elements of Philosophy)
Robert Stecker

Rowman & Littlefield Pub Inc 2010-03-16
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良いところ

  • トピックにバラエティがある(環境美学から建築美学まで!)。
  • referenceがページ数まできちんと表記してくれているので、論争状況がわかりやすい。研究者向き(第二版になって参考文献が35くらい増えててますね。興味のあるテーマが既にあるひとにとっては、ますます文献チェックに使える本になったんじゃないか)。
  • 各主張の長所短所が簡潔に示してある。

悪いところ

  • 基本的に学術論文をベースにしているので、記述が難しい。
  • 植大*2


ステッカー本は翻訳しながらかなり読み込んだので、ほかの本と比べ、良し悪しがかなりはっきり見えてると思います。(なので、この本の評価に関してはわたくし責任を持ちます。)
「美学って何?男の美学みたいなー?」という人がいきなり読むのは厳しいかもしれませんが、とても良い本です。
今考えると、この本を翻訳する決断をしたのは、成功だった気がします。
今後、日本の分析美学研究者を増やそうという目論見からしても、この本がベスト。
(たぶん、キャロルの入門書とかは、翻訳するよりも、原著で読んだほうが早いし分かる。)






一応紹介しておくと、キャロルもデイヴィスも、自筆論文の論文集的な本も出してます。
Noel Carroll. (2002) Beyond Aesthetics: Philosophical Essays,
Stephen Davies. (2006) Philosophical Perspectives on Art.
入門書読んで美学に興味がわいたひとは、こっちに進んでもいいかもしれません。
どちらも、世界的に超有名な人です。(有名だからといって正しいこと言ってるとは限らんのですが。)




以上、主観的な教科書紹介でした。
分析美学、おもしろいから、ぜひ読んでみてください。
がんばって、今年中に翻訳出します。


※2013/04/30追記
そろそろ翻訳出ます。遅くなりました。
ロバート・ステッカー『分析美学入門』(森功次訳、勁草書房、2013)


(他の研究者の方からの「この本の方が良いぞ」とか、「この本についての評価がおかしい」とかいったツッコミを、お待ちしてます。というか、こういうサーヴェイは一人では限界があります。よろしくお願いします。)



文責:森功

*1:そういう意味では、図書館に買ってもらうのが一番いいかもしれない。

*2:この本の誤植に関してはまた今度エントリを挙げます。