昆虫亀

森功次(もりのりひで)の日記&業務報告です。

慶應「分析美学概論」(木2)のシラバス

 慶應でやってる非常勤、昨年までは英語論文を講読する形式でやってたんだけど、今年は契約上最後の年なので、ちょっと趣向を変えて「分析美学概論」という形でやることにした。専任の先生とも少し話した結果、概論的な授業もちょっとあったほうがいいのかな、と思った次第。

 内容としてはこれまで各地でやってきた授業のブラッシュアップ版になると思うけど、いちおう専門向けの授業なので、レベルは少し上げるつもり。

 

 慶應シラバスは学外者には各回の授業計画が見れない形になってるので、こちらにも貼っておく(外部向けメモも兼ねて)。

 解説や質問への応答などやってたらいろいろ時間食っちゃうので、シラバスどおりに授業が進むことはおそらくない。いくつかのトピックは削ることになると思います(というか、毎年そうなってる)。

 

 

2019春

  1. イントロダクション/文献の探し方/履修者の関心の調査/美学とは何か、そして分析美学とは何か
  2. 芸術の定義1:定義とは何をすることなのか/artsとart/伝統的な芸術理論/単純な機能主義
  3. 芸術の定義2:ワイツの懐疑主義と制度論の発展
  4. 芸術の定義3:現代における芸術理論の展開/the theory of artからtheories of artsへ
  5. 芸術批評の哲学1:芸術批評とは何をすることなのか/批評のための基礎作業
  6. 芸術批評の哲学2:芸術のカテゴリー/medium specificをどう理解するか
  7. 芸術作品の存在論1:同一性条件と持続条件
  8. 芸術作品の存在論2:贋作の評価
  9. 美的なもの(the aesthetic)1:伝統的な美的判断/カント『判断力批判
  10. 美的なもの(the aesthetic)2:フランク・シブリーの美学
  11. 美的なもの(the aesthetic)3:美的証言は判断の根拠となりうるか
  12. 環境美学1:ロナルド・ヘプバーンとアレンカールソン
  13. 環境美学2:『プラスチックの木で何が悪いのか』
  14. 作者の意図と解釈

 

 

2019秋

  1. イントロダクション/文献の探し方/履修者の関心の調査/美学とは何か、そして分析美学とは何か
  2. フィクション1:フィクション執筆とは何をすることなのか/ウォルトンのメイクビリーブ理論
  3. フィクション2:フィクションのパラドックスについて
  4. 画像と描写1:描写芸術の記号システム/画像知覚の理論
  5. 画像と描写2:うちに見る(seeing in)という考え方
  6. 芸術的価値1:本質主義多元主義
  7. 芸術的価値2:芸術的価値と芸術形式の価値
  8. 不道徳作品の価値:倫理主義・唯美主義・不道徳主義
  9. 不道徳作品の価値:表現規制
  10. ジェンダー美学1:なぜ女性の大芸術家は存在しなかったのか
  11. ジェンダー美学2:ポルノの悪と表現規制
  12. 作品の表出性:悲しい音楽の「悲しさ」とは/類似説・ペルソナ説
  13. 文化的盗用1:文化的盗用の分類
  14. 文化的盗用2:文化的盗用にはどのような悪さがあるのか

 

 

授業の参考資料としてのリーディングリストを作成し、公開しています。
意欲旺盛な学生は、学期が始まる前にこちらを利用して予習してください。
http://d.hatena.ne.jp/conchucame/20181218

 

 ※2019年度の授業「分析美学概論」は4/11(木)より開始、
 木曜2限(10:45~)@教室番号354 (大学院校舎5F)です。

 

 

 

哲学系読書会のためのレジュメの作り方

 最近は授業準備時期ということもあって、初回授業でどういう資料を学生に与えるべきなのか、というのをいろいろと考えていた。

 考えていて頭に浮かんだのは、よく本の謝辞とかインタビューとかで言われている「わたしは修士のときに○○先輩にレジュメの作り方(哲学文献の読み方)を叩き込まれた」的な発言だ。ああいうゼミ内、もしくは先輩後輩関係で受け継がれる「コツ」みたいなやつは、学生にはとっとと伝えるべきで、隠しておく必要はまったくない。というか、そういう大事な情報は、もうどっかの先生がうまくまとめて公開してくれとるじゃろ、、、

 

、、、と思って探してみたのだが、意外と見つからなかった。なぜだ。(もしかしたら僕が知らないだけで、各研究室で門外不出の秘伝資料として受け継がれているのかもしれない)。*1

  • ちなみに「研究発表のプレゼン用レジュメ」の作り方は、web上にいろいろと落ちてる。でも、以下で述べるように、読書会向けのレジュメは、それとは用途も作り方もまったくちがうのだ。

 

 というわけで、結局自分で書くことにした。以下では、自分の経験則から「哲学系読書会のためのレジュメの作り方」をまとめてみる*2

 

  • なお、ここで想定しているのは、「外国語で書かれた哲学論文を皆で読む」タイプの読書会だ。
    • 以下で述べることのうち、いくつかの点は日本語文献の読書会にも使えると思うが、日本語文献を読むときに、そこまでしっかりレジュメを作るべきかはよくわからない。じっくり詳細なレジュメを作っても、あまり労力には見合わないかも。
    • あと、論文をネタに各人が自由に語り合う「哲学カフェ」では、また別種のレジュメが求められると思う。ここに記したのは、どちらかというと「今後自分でも哲学論文を書こうとする人向け」のものだ。

 

  • あと、このエントリは授業用資料としても使いたいので、意見、アドバイス、批判などありましたらぜひお寄せいただきたい。このエントリは哲学分野の人に向けて書かれているが、おそらく分野がちがうと、またレジュメに求められる役割も変わってくるだろう。そういう別分野からの考え方も、いろいろと紹介してほしい。一般教養の授業では、そういう補足も必要なので。

 

では、行ってみよう。

 

 

 

哲学論文のレジュメは何をしなければならないのか

  • この記事でいう「レジュメ」とは、読書会で論文検討をするための資料のことだ。
  • 哲学文献を検討するときに必要なのは、たんなる「要約」「縮約」ではない。というのも、哲学の論文では「何を言っているか」だけでなく、「何を根拠にそのようなことを言っているのか」「どういう論証構造になっているのか」が重要だからだ。なので、そこをまとめていないレジュメは、哲学の読書会用としては不十分だということを最初に言っておく。引用や抜書きだけでレジュメを作れると思ってた人は、考えを根本から改めるべきだ。

 

  • 哲学系レジュメにとって重要なのは、1.著者の主張と、2.そのために提示されている議論・論証argumentをまとめることだ。
    • それを補足する点として、「なんでそんなこと言おうとしているのか(動機)」「誰のどの主張を批判しようとしているのか(論敵および論敵の主張)」「裏側にある歴史的背景」なども重要な情報となる。でもそれらはすべて、上の2点を理解するためのものだ。
    • また、具体例が出されているときは、その具体例はどの主張を支えるためのものなのか、という視点から読むのが重要だ。つまり、大事なのは〈どういう具体例が挙げられているか〉ではなく、〈その具体例でどの主張をサポートしているのか〉である。

 

  • レジュメとは、論文検討をやりやすくするための資料でもある。なので、レジュメ作成中に著者を批判できそうなポイントを見つけたら、もうどんどんレジュメ内に記していこう(ただし著者の意見と自分の意見ははっきり見分けられる形で書くように)。
    • 「著者はこういうことを言おうとしているのだから、この論拠だけでは不十分では」「この事例はあまり主張のサポートにはならないのでは」「この具体例は別の仕方でも解釈されうるので、もっと適切な具体例があるのでは」「ここはおそらく筆が滑った箇所なので、真に受けなくていい」などと、ツッコミを入れていこう。
    • 「著者が言いたいこと」と「著者が言っていること」は別だ。著者が言いたいことを言えていないような箇所は、レジュメ担当者がしっかり指摘してあげよう。
  • あまりまとまってない(論点が散らかった)論文だと、議論を再構成し、まとめ直してあげることも必要になる。論証構造を明示化することで、「足りない根拠」や「隠された前提」、「議論の飛躍」などが見えてくるだろう。
  • こういう作業をやっていくには、著者と同じ目線で考えていてはいけない。「レジュメ担当者は論文の内容・ポイントを著者よりも高度に理解していなければならない」という格言がある。

 

 以上が基本的な考え方だ。では以下、レジュメづくりの具体的な手順に進む。

 

 

 

 

レジュメの作り方

  • 多くの学術論文には、論文要旨(abstract)がついている。なので、まず最初に要旨を全訳してしまうのはアリだ。
    • ただ論文によっては、要旨だけ読んでもよくわからないのもある。そういう論文は最初に要旨を訳そうとしてもうまく訳せないかもしれない。あとに回そう。
    • 全訳はたいへんだよ、というひとは、「要旨の要旨」をつくるのでもいい。いずれにせよ、少なくともこの論文はどういう論文ですよ、というのは最初に示しておこう。このざっとした理解があるだけでも、検討がぐっとやりやすくなる。

 

  • 場合によっては、論文のまとめに進む前に、議論の背景をざっくり説明してあげるのもいいだろう。
    • 「最近では〇〇主義と▲▲主義が論争していて、この論文は〇〇主義側から論点Xを提示するものです」とかは要旨などにも書いてあると思うが、その○○主義、▲▲主義がそれぞれどういう立場なのかは、先にざっと解説してくれると論文が読みやすくなる。担当者がそのあたりの文脈を解説・紹介できるなら、ぜひやってほしい。(レジュメ担当ではないけどそのテーマに詳しい人が読書会メンバーにいるのであれば、その人が最初に補足解説をしてあげるといいだろう。)

 

  • あとは、段落ごとに主張をまとめていく、という作業を進めていくことになる(内容によっては数段落一気にまとめてもいい)。
  • どれくらいざっくりまとめるかは、論文の種類や読書会の性質にもよる。じっくり検討したい論文、むずかしい論文は、あまりはしょらず丁寧にまとめていこう。丁寧にまとめるほど、検討会は充実する。

 

 

ここで、初学者向けの注意点をいくつか

  • 注意点1:まとめていくとき、本文の該当箇所を明記すること。読書会のときに「これ本文のどこに書いてあるんだっけ」と迷わなくていいようにしておこう。【p. 23, I have said that ~】などと、段落冒頭の数ワードを記しておくと親切。
  • 注意点2:コメントを書くのは大事だが、そのさいは自分の意見と著者の意見がきちんと見分けられる形で書くこと。やり方は、注をつかう*3、【】でくくる、色を変える、などなど好きなやり方でいい。ただし色を変えるやり方だと、レジュメをプリントアウトして配る勉強会では判別しにくくなるかもしれない。
  • 注意点3わからない箇所は、「ここはよくわからなかった」と正直に書くこと。「この文の文法構造がよくわからない」とか「この単語のニュアンスが謎」などと、しっかり書く。ごまかさない。わからない箇所は原語・原文を表記してあげとくと、検討がやりやすいよ。
    • わからない箇所があるのは読書会にとって問題ではない。よくわからない箇所を皆で検討するのが読書会ってものだ。著者の書き方が悪いのか、それとも担当者が誤読しているのか、そこを皆で話し合うことで、いろんなことが見えてくる。その学びは、独学では得られない。読書会をやる意味はまさにそこにある。
    • レジュメ担当者は、恥をかくのが仕事だ。誤読している箇所、読めてない箇所、気づいていない論点などを皆に指摘してもらうことで、より深くその論文を理解することができる。恥をかけばかくだけ、学びは大きい。レジュメ作成は大変だが、勉強会で一番学べるのは、レジュメ担当者だ。あと、読めてない部分をあいまいにしたまま読み進める癖をつけると、論文を読むスキルが伸びないぞ。
    • 逆に、さくっと苦もなくレジュメを切れて、勉強会でも何も発見がないようだったら、その勉強会は無駄だ。そういう論文を勉強会で読む意味はあまりない。文献を変えよう。

 

 

 

段落ごとに「まとめ文」をつくろう

ここで、レジュメ作成に慣れていない人に向けて(そして哲学論文を読み慣れていない人に向けて)、おすすめ練習法を紹介しておこう。それは、段落ごとの要点を「文で」書き出していく、というものだ。

  • レジュメ作成のさいには、この「まとめ文」を太字やフォント変更で目立たせ、各段落の頭につけるといい。各段落にタイトルをつけていくような感じで。
  • 大事なのは「文」のかたちでまとめをつくること。これはめんどくさい作業だし、あとで段落のレジュメもつくっていくのだから内容も重複しがちなのだが、それでも(少なくとも最初は)きちんと文の形でまとめるようにしよう。「カントへの批判」などと、単語の箇条書きで曖昧にまとめないこと。論点がぼやけてしまう。「カントは○○と▲▲を同一視してしまっている」などと、その段落の要点をしっかり文でまとめよう。
    • パラグラフ・ライティングの授業では、よく「段落はじめの一文に要点をまとめましょう」とか言われるけど、じっさいにはすべての論文があれをやってくれてるわけではない。なので「まとめ文」はちゃんと自分の頭で考えながら作成する必要がある。
  • さらに、この「まとめ文」をつくるときには、たんにその段落の内容をまとめるだけでなく、前後の段落との関係、論文全体でのその段落の位置づけ、などがわかる形でまとめるようにしよう。具体的には、「著者の主張1」とか、「メインの主張の補足」「具体例1」「想定される反論A」「反論Aへの応答」「第3節のまとめ」など、「まとめ文」の頭にその段落の役割を示すフレーズをつけるといい。
    • 学術論文では、段落ごとに役割はちがうし、各段落の重要度も同じではない。論述の流れにそって全体と照らし合わせながら読まないと、その段落のメインポイントは読み取れないし、下手すると誤読してしまう。論敵の議論を紹介している文を著者の主張として読んじゃったりするのは、誤読の最たるケースだ。
      • ちなみに、段落同士のまとまりを示したいときには、箇条書きのレベルを下げるなどして、「この段落は前段落の補足ですよ」などと関係を示すといい。論文の構造を見やすく示すのも、レジュメの重要な仕事だ。

 

  • よくまとまってる論文だと、レジュメ完成後、この「まとめ文」を読んでいくだけで論文の中身がわかる。逆にいえば、このまとめ文がうまくつながっていかないようであれば、もういちど読み直したほうがいい。どこか誤解したり、論述の流れを追えていない可能性がある。
    • といっても、この「段落まとめ文」作成法が、すべての哲学文献にうまくハマるわけではない。昨今の推敲を重ねて書かれた学術論文はたいてい行けると思うが、世の中には書き方の雑な論文や、あまりうまくまとまっていない論文もたくさんある。
    • あと、現代思想系の随筆文などでも、あまりうまくいかないと思う。そういうのはまた別の読み方があるし、読書会のやり方もまた変わる。

 

  • この「まとめ文」作成法は教育効果が大きいので、初学者にはオススメだ。学部生向けの授業であれば必須課題にしてもいいくらいだ。
  • 1.このまとめ文作成の練習を続けると、論文の読み方が身につく。「この段落の役割は何かなー」という視点を保ちながら論文を読めるようになるからね。段落の役割に敏感になると、論文を読むスピードも上がるぞ。
  • 2.さらに、まとめ文作成スキルがついてくると、論文を書くのも上手くなる
    • レジュメの作成は、本文→段落ごとのまとめ→「まとめ文」作成、という順序になるわけだが、論文を書くときには、その逆の手順を踏めばいい。
    • つまり、(目次作成)→「段落まとめ文」作成→各段落の内容を埋める→文章化する、という手順だ。

 

 

 

レジュメは読書会をつうじて完成させていく

  • レジュメ担当者は、読書会までにレジュメを作るわけだが、仕事はそこで終わりではない。
  • 読書会本番の中では、いろんなことが見えてくるだろう。書き方がマズいところ、誤読していたところ、見えていなかった背景、などなど。担当者は、読書会中にそうした点をどんどん追記・訂正していこう。読書会とはレジュメをブラッシュアップさせる場だ。
    • なので、読書会にはPC持参がいい。それが無理でも、すくなくともさっとメモが取れる体制はととのえておこう。つまり、スマホはやめろ。
  • 読書会終了後に、参加者に完成版レジュメを送ろう。それが担当者の最終業務だ。
    • もしくはファイル共有をして、皆で書き込みながら読書会を進めるやり方でもいいと思う。責任の所在はあいまいになるが、場合によっては作業がザクザク進む。

 

  • こうして、読書会が終了したとき、あなたの手元には、あなた自身の研究にとても役立つ第一級の資料が残ることになる。それは財産だ。その財産は、次の論文執筆にとても役立つかもしれないし、将来ふと読み返したときに、すごくいいアイデアを授けてくれるかもしれない。将来授業をすることになったとき、思わぬ助けになってくれるかもしれない。過去の自分に感謝!ってやつだ。
    • そのためにも、レジュメは数年後(論文内容を忘れきって)ふと読み返したときでも理解できるような表現でまとめておくこと。キーワードだけ並べておくようなレジュメは、論文を読んだ直後は理解できるかもしれないが、時間が経ったあと読み返してもよくわからない。
    • サボらず、利用価値の高い財産を残そう。

 

 

 

最後に

哲学の勉強会は、とても楽しい。とりわけ、自分よりも優秀な人達と勉強会をすると、ほんとうに学びは多い。アクティブラーニング? うるせえ勉強会しろ。哲学業界は長年ずっとこれやってきてんだよ。

最近ではTwitterなどSNSをつうじて勉強会メンバーも探しやすくなったし、skypeなどを利用すれば遠隔読書会も可能だ。どんどん勉強会をやろう。

 

 

 

 

 

なお、分析美学の読書会やるなら以下アンソロジーから論文を選ぶといい。良質の必読文献が並んでいる。

 

 

2019/02/07追記

思想史系論文のレジュメについて

 とある方から、思想史系の論文についてはレジュメをどうすべきかという質問を受けました。

 思想史論文を読む勉強会では、レジュメの役割もすこし変わると思います。思想史系の論文では、argumentを組んで論証することよりも、資料を提示して実証したり、歴史的背景を指摘したりすることのほうが論文の主眼になったりしますからね。

 

 思想史勉強会のレジュメでは、まずは「この論文は、この資料を使って、こういう解釈を提示している」というところを忠実にまとめるべきだと思います。勉強会では、その著者の仕事・解釈が適切なのかを話し合う感じになるでしょうか。

 

 思想史系の論文では、ポイントがどこにあるか見えづらいことも多いです。レアな資料を出しているとか、あまり注目されなかった部分を取り上げてるとか、詳しい人にしか評価できない仕事をしている論文もあるでしょう。思想史系の論文では情報量そのものが論文の価値だったりもしますから、情報はなかなか削りづらいのも事実です。

 勉強会のネタとしては、ひとまずコメントとして「自分が考えるこの論文の評価」を書いておく手もあります。それをネタに皆で議論することで、自分には見えてなかった長所・欠点が見えてきます。

 

 もちろん勉強会のためには、疑問点を出しておくのも大事です。「この資料からの主張は出せるのか」とか「別資料がうまく読み解けなくなるのでは」とか。こうした指摘は、歴史的背景や一次資料についての詳しい知識も要るので大変ですが、勉強会メンバーにとっては有益ですのでどんどん指摘しておきましょう。

 

 最終的に勉強会本番では、皆で検討しながら、「その論文を自分の論文でとりあげるとしたら、どう紹介すればいいのか、どう批判すればいいのか」といった点がわかるレジュメに仕上げていくのがいいと思います。それが残れば財産になりますしね。

 

*1:なにか良い資料がありましたら教えてください。

*2:といっても、以下で書いてあることは僕が先輩や勉強会仲間からこれまで教わってきたことであり、オリジナリティはない

*3:こんな感じ

2018年度レポートに関するコメント、諸注意

各授業のレポートの採点がおおむね終わったので、いろいろと気づいたことを書いておく。以下に記した諸注意は、すでに履修者たちには送ったものだが、こういう注意点はどの大学でも共有可能なものだし、少しでも多くの目に触れるほうがいいので。

 

 

まず形式上の問題

  • レポートの冒頭には「氏名、学籍番号、所属学科、学年、授業名、年度」を書きましょう。名無しレポートがたまにあります(表紙をつくるように指示する先生もいますが、わたしはどちらでもいい派です)。
    • 特に「学科」や「学年」はコメントの付け方にも関わってきますので、書いておくほうがいいと思います。
  • 提出するword/pdfファイルのファイル名は、少なくとも「氏名、授業名、年度」がわかるものにしておくこと。例:「Report_PopularCulture2019_NorihideMori」
    • 「レポート」とか「美学」といったファイル名の人がかなりいます。これだと、他の人のレポートと区別できないので困るんですよね。
    • あとあと(数年後に)自分でファイルを探しやすくするためにも、ファイル名はきちんとつけておきましょう。

※2019年2月1日16時追記:ただし、執筆者が誰かわからない形で採点する「ブラインド採点方式」をとっている先生もいます(むしろその方式のほうが望ましいのかもしれない。来年度は検討したい)。そういうケースでは表紙やファイル名に名前などは入れないように指示があると思いますので、それに従いましょう。

  • ちなみに今年は平成30年度です。「平成31年度」と書いている人が何人かいました。

 

 

参考文献の書き方について

  • 翻訳文献を引くときには、著者の名字で記します。ファーストネームで文献参照をしている人が何人かいました。
    • ノエル・キャロルの2017年の文献を引くのであれば、「キャロル(2017)」と書きます。「ノエル(2017)」じゃないよ。
    • また、本文中でほかの論者に言及をするときも、「ノエルによれば~」ではなく「キャロルによれば~」とします。日本人の名前をあげるとき「太郎によれば~」とはしませんよね。
  • 文献の書き方はさまざまなスタイルがありますので、自分の所属学科の基本スタイルを踏襲してもらってかまいません。ただふつうは二重鉤括弧『』で論文を指すことはありません。『』は書籍を指すために使います。

   例:ノエル・キャロル『批評について』森功次訳、勁草書房、2017年

  • 文献表記の書き方に迷ったら、所属先でよく使われている学術論文の参考文献表をマネしてください。それが手っ取り早いです。
  • web上のページを引いてくるときには、ページのタイトル、urlを書きましょう。
    • C:¥Users¥Tanaka¥Documents¥test.txtのような「ファイルパス」を書いている人がたまにいます。ファイルパスは、あなたのPC上でのファイルの位置を示すもので、urlとは違います。他の人がファイルパスを打ち込んでも、そのデータにはたどり着けません。
  • 引用するときには、該当ページ数まで書きましょう。文献名だけ挙げて済ますのは不親切です。「本当に読んでいるのか(正確に読めているのか)疑わしいぞ」と思われないためにも、該当箇所を明記するのは大事です。
    • 引用も言及もなしに本文を書いて、最後に取ってつけたように参考文献だけを挙げるのも、あまりよいやり方ではありません。「その文献はレポートのどの部分を書くのに役立ったのか」を分かるように書いておくのが望ましいです。
    • 段落の末尾に注をつけて、「この段落の考察はキャロル(2017, 46)を参考にした」と書く手もあります。

 

 

 

文章の書き方のコツとして

  • 「主語なし文」に気をつけましょう。論文中に、主語なしで「~と考える」のような文がいきなり出てくると、それを考えているのが誰なのかわかりづらい。
    • 日本語は主語がなしでも成立する言語ですが、学術的な文章を書くときは、とくに表現上の工夫をする意図がないのであれば、基本は主語アリの文にするのが無難です。
  • 「わたしはXに賛成/反対である」、のXが何なのかが読み取りづらいレポートがいくつかありました。たとえばウォルトンの意見をいろいろと説明したあとで、「わたしはウォルトンには反対である」と書かれても、彼のどの主張に反対しようとしているのかが分かりません。「わたしはウォルトンの〈フィクション観賞中の恐怖は文字通りの恐怖ではない〉という主張には反対だ」などと、Xの部分を文の形で書くと、議論がわかりやすくなります。 
  • 文章の全体構造を練ってから全体を仕上げましょう。よほどの天才でないかぎり、良い文章を冒頭からいきなりスラスラ書くのは無理です。
  • いったん書いたあと、全体構造を把握したあとでもういちど書き直すことも大事です。「最終的に何が言いたいのか」「そのために必要な作業はなにか」「いま全体の中でどの部分を書いているのか」といったことを念頭に置きながら、読み直してみましょう。「この箇所で何を書かなければならないのか」「削っていい箇所はないか」などが見えてきます(全体の論旨から外れる「余談」は注に回す、というのはひとつのテクニックです)。

 

  • くりかえし何度も言いますが、レポートは書き上がったら一晩おいて、翌日音読してから提出しましょう。日本語がおかしい部分や、論旨がおかしい部分を発見できます。

 

 

 

最後にアドバイス

  • 大学生ともなると、文章が上手い人と下手な人とのあいだに、かなりの差が出てきます。
  • 文章が下手な人の特徴のひとつに、語彙や知識が乏しいだけでなく、言い回しのレパートリーが少ない、という点があります。日頃からもっと本を読みましょう、というのは大前提ですが、ひとつ練習法をあげておきます。
  1. 手元にある学術文献、評論文などの中から、自分が読みやすいと思ったものを一つ選び、その文章の一文一文の文末表現だけ音読してみてください。そこからよい言い回しを学ぶこと。文末の言い回しを工夫するだけで、文章はぐっと良くなります。
  2. その後、今回提出したレポートをもういちど読み返しながら、もっとうまい表現に直せないか、書き直しの作業をやってみましょう(提出からすこし時間がたった今は、書き直しの良いタイミングです)。推敲作業は、文章が上手になるための良い練習になります。

 

 

 

なお、数あるレポート執筆本の中で今のところいいなと思ったのはこの二冊。

他になにかいいのあれば教えてください。

 

名古屋大学のアカデミック・スキルズガイドも良いです。

これはレポート執筆前というよりも、学期頭に呼んでおくべき資料だけど。

http://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/asg/

 

あと戸田山『論文の教室』は名著だし面白いんだが、これを読める子はもうレベル高いのでなぁ、、、というところ。