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森功次(もりのりひで)の日記&業務報告です。

輪島裕介『創られた「日本の心」神話――「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史』 第三部 第十一章

創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史 (光文社新書)創られた「日本の心」神話 「演歌」をめぐる戦後大衆音楽史 (光文社新書)
輪島 裕介

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第十一章 「エンカ」という新語




「演歌」は1960年代末から72年ごろにかけて、若者向きの流行現象として音楽産業によって仕掛けられていたように見受けられます。(p.286)




p.289から292あたりの分析は、おそらく本書のキモの一つ。

「演歌」ないし「艶歌」が「日本的」なものとして正当性を付与されるにあたっては、股旅やくざと遊女、その現代版としてのチンピラとホステス、そうした人々の空間である「盛り場」といった、「健全なお茶の間」の公序良俗の空間から危険視されるアウトロー悪所にこそ「真の」民衆性が存するのだという発想があった(p.289)

やくざやチンピラやホステスや流しの芸人こそが「真正な下層プロレタリアート」であり、それゆえに見せかけの西洋化=近代化である経済成長に毒されない「真正な日本人」なのだ、という、明確に反体制的・反市民社会的な思想を背景にして初めて、「演歌は日本人の心」といった物言いが可能となった、ということです。(p.290)