昆虫亀

森功次(もりのりひで)の日記&業務報告です。

紀要論文が出ました。ウォルトンのフィクション論。

やっと出ました*1

森功次「ケンダル・ウォルトンのフィクション論における情動の問題――Walton, Fiction, Emotion」(『美学芸術学研究』29号、2010年)

そのうち東大のリポジトリにも綺麗なPDFがupされるとは思いますが、いつになるか分からないので、もう自分でスキャンしたやつをupしときます。 
 ※2012/07/13追記: 正式にアップされました。
pdfリンク
興味ある方はどうぞ。


また序文引用しときます。

「ケンダル・ウォルトンのフィクション論における情動の問題――Walton, Fiction, Emotion」

 1970年代以降のフィクション論を――とりわけ分析美学のフィクション論を――ケンダル・ウォルトン(Kendall Walton)の仕事を抜きにして語ることはできない。再現(representation)をテーマにウォルトンが長年構築してきたごっこ理論(make-believe theory)は、賛否双方の側で盛んな議論をまき起こしつつ、ここ20〜30年間、各方面において議論の土台を形成してきた 。ウォルトンの理論が影響を与えた領域は幅ひろい。なかでも画像体験の説明や、虚構的キャラクターの存在論、虚構的真理の発生原理、さらにはフィクション体験における情動の取り扱い、などに関する議論において、ウォルトンの存在は巨大である。
 たしかに、一時は多方面において活発に行われた議論も、現在ではやや落ちついた感もある。とはいえ、ウォルトンの理論が正当に評価されきったのかというと、そうは言えない。残念なことに、ウォルトンの狙いをつかみとれていない検討論文も数多く存在するし、なかには、ただ直感的に異論を唱えているように思われるものも無いわけではない。ウォルトンの一見衝撃的に聞こえるごっこ理論を正当に評価するには、ウォルトンの理論がいかなる目的のもとに構築され、いかなる利点を提示しているのかを理解せねばならない。本論の目的の一つは、ウォルトンの理論の目的と利点を明示することにある。
 もちろん、この一大理論の膨大で多様な主張すべてを検討することはできない。本論が焦点を当てるのは、フィクション作品観賞時の情動(emotion)についての議論である。このトピックは、ウォルトンが行った数多くの主張のなかでも最も議論されたトピックのひとつであるが、その一方で、ウォルトンの主張が最も誤解されたトピックでもある。情動の観点からウォルトンの主張を明らかにする本論の作業は、ウォルトン理論全体の理解に資するとともに、近年の情動に関する錯綜した議論を理解することにも役立つだろう。
 とはいえ、本論はたんにウォルトン理論の解説にとどまるわけではない。本論のもうひとつの目的は、情動に関するウォルトンの理論がもつ、重大な欠陥を指摘することにある。ここであらかじめ――ウォルトンの用語法を用いつつ――その内容を示しておくならば、それは次のような指摘になるだろう。すなわち、フィクション体験の反応として現れる情動的ふるまいの種別を、ごっこ遊び内の虚構上の真理だけから、ましてや想像の対象の存在性だけから、規定することはできない。フィクション作品体験の情動には、それがいかなる狙いのもとに拵(こしら)えられたものなのか、についての認識が大きく関わっている。
 本論の構成を確認しておこう。まず第1節、第2節では、ウォルトンが情動をあつかうさいの鍵概念である「ごっこ遊び」「ゲームワールド」といった概念をそれぞれ検討しつつ、ウォルトン理論の目的・利点・不足部分を明らかにする。この概念整理を踏まえたうえで、第3節以降は、情動を種別化するプロセスに目を向ける。第3節では、ウォルトンの「準情動(quasi-emotion)」という概念の位置づけと、その情動が種別化されるプロセスを確認し、最後に、第4節では、上に述べたような点から、ウォルトンの情動の種別化プロセスがもつ問題点を指摘する。



第1節 ごっこ遊び Game of Make-Believe
1.1 「ごっこ遊び」概念のポイント
 1.2 「ごっこ遊び」概念の意義と問題:快、遊び、参加
第2節 ゲームワールド Game World
 2.1 ゲームワールドと作品世界
 2.2 世界共有という考え方に関する誤解
 2.3 ゲームワールド概念は、観賞における読者の参加構造を説明するための概念である。
第3節 準情動 Quasi-emotion
 3.1 フィクション作品体験における情動のパラドックス
 3.2 準情動(Quasi-emotion)と、その種別化プロセス
第4節 ウォルトン理論の問題:準情動と、虚構上の真理との齟齬
 4.1 ウォルトンの情動種別化プロセスがもつ問題
 4.2 チャールズが犯した2つの不合理性:志向対象の導出と、情動の種別化
 4.3 ウォルトンのプロセスがはらむ、もうひとつの問題:情動の種別化における拵えもの性の認識
 4.4 情動的反応の記述がもつ、もっともらしさ


あと、Referensesを。

References

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  • ―――. 2008. Marvelous-Images: On Values and the Arts, Oxford, Oxford University Press.

あと、誤植情報です。


第二節の頭(p. 52)の冒頭、
「〈チャールズがスライムの方に〜」 
 → 「〈スライムチャールズの方に〜」




では。


コメント、批判、質問などなど、遠慮なくいただけると助かります。
質問にはできるだけ懇切丁寧にお答えする所存ですので。


*1:最終稿提出したの春だぜ。おい。