昆虫亀

森功次(もりのりひで)の日記&業務報告です。

美学を一から勉強するひとのために:文献リスト

先日、「美学を一から勉強しようとするひとは何読めばいいですか?」って聞かれました。
これまでは「美学研究者なら誰に聞いても同じような答え返ってくるんじゃね?」と思ってて、わざわざ参考文献リスト作ってなかったのですが、昨日amazonで「美学」で検索したら中井正一の『美学入門』とか出てきたんで、やっぱ公の場に出しといたほうがいいかな、と。



では以下、わたしのオススメ本です。
ちなみに、日本語文献です。
英米系分析美学の入門書については、以前書いたので、こちらを見てください⇒



はい。
とりあえず、最初はこれ読んで下さい。
西村清和『現代アートの哲学』

まぁ教科書として書かれてますので、読みやすいですし、素朴な日常的関心から専門的な議論への持って行き方が上手いので、読んでて面白いと思います。
練習問題もついてるし、ちゃんと自分で考えたいひとにはオススメ。



読みやすいという点では、これも良いです。新書ですし。 
※2019年に増補版が出ました。
佐々木健一『美学への招待』

ちなみに佐々木先生の新書では、わたしこれが好きです。入門書ではないですが、ばつぐんに面白いです。
佐々木健一『タイトルの魔力』


※2019年10月10日追記
2019年にもうひとつ良い本が出ました。こちらも初学者向けにはいい本だと思います。入門書(つまり「これから美学の勉強をしたい!」という人に向けた本)というよりは、高校生から大学初年次の学生に美学に触れさせる本、という感じ。100ページちょっとなので、さくっと読める(ただ、この分量でこの値段かー、という不満点はちょっと残りますが*1)。「美学なんて言葉は初めて聞きましたし、そもそもふだん本をあまり読みません」って人は、最初にこの本から読むといいかもですね。
小林留美『美学をめぐる思考のレッスン』

藝術学社のこのシリーズはだいたいどれも同じようなターゲット層で、サクッと読めるものが多いです。
すくなくとも、大学人は自校の図書館にリクエストすべき。



※2023年4月5日追記
2022年に良い本が出ました。小林『美学をめぐる思考のレッスン』の前後にこれを読むといいと思います。食の観点からの美学入門書です。読みやすい。電子書籍版もあります。
源河亨『「美味しい」とは何か-食からひもとく美学入門』


※2023年10月09日追記
2023年に良い本が出ました。芸術、芸術家、美、崇高、ピクチャレスクの5つのキーワードを説明しながら、西洋近代美学の成り立ちを説明してくれる本です。現代のわたしたちの価値観を支えているいろいろな概念がどうやってできてきたかを歴史的に考える、よい入門書になっています。源河『美味しい~』が現代美学への入門書だとすると、こっちは美学史の入門書という位置づけになると思います。
井奥陽子『近代美学入門』






それで、もうすこし興味持った人、ちゃんと勉強しようという気が出てきた人は、これ買って下さい。
佐々木健一『美学辞典』
もしあなたがちゃんと勉強したい人であれば、これは図書館で借りるんじゃなくて、ちゃんと買いましょう。どーせ何度も読むことになるから。
ちなみに私は、学部時代にこの本の記述の洗練度にえらく感動し、友人*2にも買わせました。

ちなみに、すでに10年前には、佐々木先生は「この本には第二巻の計画がある」と言ってたのですが、どうなったんだか。



つぎはこれ。
小田部胤久『西洋美学史』
美学史をちゃんと勉強したいひとは、必読。
著者は、思想史やらせたら、おそらく美学界ナンバーワンの人です。

ところどころにある図がわかりやすい。
とはいえ、この本はたんなる美学史紹介の本ではないです。あとがきから引用しますと、

「本書は学説を「概説」「紹介」するのではなく「論じる」形式を取っている点において一般書としては異色の存在であろうが、私がこうした形式を採用したのは、概説的にして網羅的な記述は読者に多くの知識を与えても、それ以上のことを残すことは少ない、と考えるからである。」(p.246)

良い本です。

2021/02/12追記
『西洋美学史』が読めた人は、こちらに挑戦してもいいかもしれません。
小田部胤久『美学』
こちらはカントの『判断力批判』を読み解きつつ、美学のいろいろなトピックに触れていく本です。
難解ですが挑戦しがいのある本です。名著。



日本の美学に関心がある人は、これ読んで下さい。
日本にどうやって美学という学問が成立していったのかが、よくわかります。面白いです。
神林恒道『美学事始』


ただ、著者はその後、文庫本も出してるので、こっち先に読んだほうがいいかもしれない。上の本の増補改訂版です(削られた節もあるけど)。
神林恒道『近代日本「美学」の誕生』



ちなみに、わたし個人的には、竹内敏雄編『美学事典』が好きなんですね。院試前にはけっこう熟読しました。

この本をみると、この時期の日本の美学者はすごいなーと感動します。われわれ日本の美学者は、この学問的蓄積を無駄にしてはならない*3
今こういう事典つくれるだろうか、と考えるとちょっと自信がない。
※2020年3月12日追記:こんなこと書いてましたが、なんと竹内事典と同趣旨の現代版『美学の事典』をつくる企画が立ち上がり、作業進行中です。うまくいけば2020年8月刊行予定。→※2020年年末にようやく出ました。僕は「批評・解釈の役割――作品の意味は作者の意図に還元されるのか」「子育てと美学」の2項目を書いてます。




とりあえず、最初に読むべき本は、こんなもんですかね。
間違ってもユイスマン『美学』とか渡邊二郎『芸術の哲学』とかに手を出しちゃダメです(すくなくとも最初は)。
他に挙げるべき本、オススメなどあれば、御指摘おねがいします。


いちおう言っておきますが、上に挙げたのは「そもそも美学ってなんじゃい?」って人向けの本です。
もう個々で考えたいトピックが固まってる人には、それぞれ別のオススメ本があります。
「芸術と想像力との関係について考えたいんですけど」とか「読書経験について考えたいんですけど」とか、そういうひとは、個別にまた質問してください。


では。
今年もよろしくお願いします。







※2012/07/01追記、一冊追加

追加で、この本挙げておきます。酒井 紀幸、山本 恵子編『美/学』(2009)

わたし恥ずかしながら、今までスルーしておりました。なかなかいい本です。もともと教科書として作られているので、記述も簡単。
ちゃんと古典文献から重要フレーズを引用して載せてるところとか、まさに教科書っぽいですね。
あと、内容が非常に多岐にわたっているところなどはポイント高いです。最近の「日常生活の美学」などのトピックにも触れてますし。そして意外と、中世美学にページが多く割かれているのは良いです。ふつーに勉強になりました。全部で80-90節くらいあるのですが、すべてにオススメの参考文献が挙げられてます。すばらしい。
(ちなみに目次はここで見れます。pdfです。 http://www.kyoiku.co.jp/upload/m_books/602/tatiyomi.pdf
ただちょっと記述量が少ないので、話の内容は薄いです。まぁしょうがない。なんか予備校が作った高校の参考書みたいな感じです。これ読んでゼミで何か議論するのは、難しいかもしれん。
あとフランスの近代美学についてはほとんど記述がないし(四行程度しかない)、後半のほうはなんだかエッセイみたいな文章もちらほらあるのですが、ともあれいい本です。オススメ。
順番的には、佐々木先生の美学辞典読む前に、一発目を通しておくといいかもしれない。


2014/07/26追記
今年はこんな本も出ました。
『芸術理論古典文献アンソロジー』西洋篇&東洋篇
いきなりここから入ってもちょっと文献が多すぎてまごつくかもしれませんが、この分野の多様さを知るにはいい本だと思います。まわりに解説してくれる知り合いがいれば、なお良し。あと東洋篇はけっこう勉強になる。


あと佐々木健一先生の新書類はKindle版が出ましたね。

*1:藝術学舎の「アートライティング」シリーズはどれもそんな感じ

*2:こけし好き学芸員

*3:「「美学」なんて学科があるのは日本だけだ」と揶揄的なことを言う人がたまにいますが、こういう蓄積をちゃんと見てから言えや、と言いたい。この時代にこの事典がつくれるってのは、結構すごいぞ。