西村玲さんについての記事がすこし話題になってたこともあって、以下のようなツイートをしていた。
文系ポスドクのサバイブ手段はほんとさまざまで、「え?そんなやり方もあるの?」みたいな驚きの宝庫なので、進学迷ってる人はとりあえず諸先輩方に相談するといいと思いますね。
— MORI Norihide / 森 功次 (@conchucame) April 10, 2019
『文系ポスドクのサバイブ術』みたいな本が出るといいかもしれないが、みんなの生き延び方見てるとほんと属人的というか、そのひとの出会いや運で生き延びてるようなのばっかだから、結局ノウハウ本ではなく諸先輩方のエピソード集みたくなってしまうのかもしれん
— MORI Norihide / 森 功次 (@conchucame) April 10, 2019
しかも成功者バイアスがかかったエピソード集になりそうなので、よけいに厄介というか
— MORI Norihide / 森 功次 (@conchucame) April 10, 2019
若手研究者問題は世間的にも広まりつつあるし、ほんとうにどうにかしなきゃいけない問題だとつねづね思っている。残念ながら、とても優秀な後輩に対しても「まぁなんとかなるから進学しなよ」とは言い難いのが現状だ。
ただ、ポスドクの生き方を「アカポスゲットかコンビニバイトか」みたいな二分法で捉える見方が世間に広がりつつあるのにはちょっと反対したい。院生・ポスドク時期には、皆けっこう工夫してお金を稼いでたりするんだよね。
あと、なんだかんだいって優秀な人が多いので、おもしろエピソード多い(「それはアナタだからできたんであって、普通の人は無理ですよ」みたいな話も多いが)。
というわけで、とりあえず自分が知っている(聞いた)生き延び方をいくつかまとめておく。こういう情報は人づてにはいろいろと聞くんだが、プライバシーの問題もあってあまりおおっぴらに語られることもないよな、と思うし。
進学を考えている人にとっては、なにか参考になるかもしれない。
ただもう一度言っておくと、こうしたサバイブ術には運や出会いなど偶然的要素が多分にからむので、せいぜいおもしろエピソード的に読むくらいのほうがいいと思う。
では、いくつか紹介を。
塾(寺子屋)を開く
- 塾講師、家庭教師は院生・ポスドクの常套手段だが、それをさらに発展させて、生徒を集めて寺子屋を開くという手がある。公民館などの会議室を借りて、そこに数時間人を集めて子供の勉強を見るわけだ。院生仲間が数人あつまれば、そこそこの数の子供を見れるし、個別指導も丁寧にできる、あと時間の融通も効く。
- メリットは塾講師なんかよりずっと高給になること。生徒側の負担も安くできるので、うまくいけばwin-win関係を築ける。
- 親御さんからの信頼を勝ち得たら、別途、家庭教師の仕事をもらえることも。
図書館司書・事務員
研究委託
- とある先生(研究室)から資料整理などのかたちで仕事をもらっている院生もいた。
- こうした仕事をもらえるかどうかはほんとうに人によるし、下手したらパワハラの温床にもなりかねないのでいろいろとアレだが、それでも低賃金のバイトに時間を取られるよりはいいかもしれない。
- あと学会事務局をやっている研究室であれば、そこから派生する学会事務仕事があったりもする。これは場合によってはそれなりの収入を生む。
- 博論提出して学生の身分がなくなったあとでも、研究室事務員のようなかたちで教職員身分をもらえると、図書館・データベースなどの資料アクセス権がキープできる。
翻訳
- 学術翻訳で稼ぐのはほぼ無理だが、商業出版のほうでうまく仕事がみつかれば、それなりの収入を得ることができる。
- 翻訳すべき本を探すための下読み仕事、みたいなのもあると聞いたことがある。
- 学術出版でも、依頼翻訳のかたちで驚くほどの翻訳料がもえることもあるらしい。
- あと翻訳は、うまくいけば口コミで芋づる式に依頼が来る。とある遺族から「死んだ娘が外国語で書いた論文を翻訳してほしい」みたいな高額依頼もあったり。
- 著作権料がかからない有名論文を翻訳してnoteで売るという手もある。小遣い稼ぎにはなる。
大学職員
- ポスドク研究者を教育支援系部署で職員として雇用する、という話は最近よく聞く。どの大学もFDに力を入れる時代だ。
- 教育支援系の仕事は、もとの研究分野と直結する仕事ではないかもしれないが、スキルを十分に生かせる仕事だし、職歴にきちんと書けるというメリットもある。
- あとポスドクという身分に理解もあるので、他大学での非常勤講師の仕事を認めてくれたりもする。
株
- リスクあるし、下手したら研究時間を大幅に削られるのであまりおすすめはしないが、株やらFXやらで学費を稼いでいる人がいた。その子は一時期「アベノミクス最高よ!」と言っていたが、、、
治験
- 治験はバイトではないが、それなりの金額を得ることができる。
- しかも入院中はそれなりに時間の融通がきくので、読書・研究が可能。最近はけっこう設備もきれいになっているらしく、規則正しい生活ができ、栄養ある食事が摂れる点など、利点も多い。
- ただ、一定期間入院しなければならなかったりするので、授業や学会と重なる時期はちょっとやりづらい。あくまで副収入の手段か。
ポスティング
- マンションとかの郵便受けにチラシを入れるアレ。
- Podcastやaudibleなどを聞きながらやると一種の研究時間にもなるし、運動不足解消・引きこもり防止にもなる。
- 時間の融通はめっちゃきく。生活リズムがめちゃくちゃの人にはいいかも。
- 研究に理解ある先生に出会えれば、私設秘書になるというやり方がある。「いろんな分野の情報をまとめて良質の文章をすばやく書ける」という人文系研究者の能力は、議員秘書としてはけっこう重宝される。
- きちんと仕事をすれば、公設秘書への誘いも(公設秘書になると、もはや研究はできなくなると思うが)。
- メリットはいろんな業界の人と出会えるので、社会勉強になること。研究の幅が広がるかも。
- 選挙時期と重なると、かなり忙しい。
- ブラック体質な事務所も多い。
民間就職
- 院進したからといって、アカポスにつかなければならないということはまったくないし、今は修士・博士号保持者がどんどん活躍してる時代。
- 修士出て民間就職した先輩のなかには、大学院を出て数年後には「もう教授数人分くらいは稼いでるよ」と言ってる人もいた。うらやましい。
- 最近は企業に務めながら学会発表してる人もめずらしくなくなってきた。民間就職するからといって研究生活が閉ざされるわけではないのだ。ぶっちゃけ無給・薄給の研究員として年数十万の科研費とるよりも、民間就職したほうが研究に割けるお金は多いのではないか。
ひとまずこんな感じ。
ここに書いたのはおそらく序の口で、探せばもっと驚きのサバイブ術はわらわら出てくると思う。
とはいえ、まわりの院生・ポスドクの仕事をみるに、やっぱり数としては塾講師や企業でのアルバイトが多いと思うし、それが常套手段だろう。このエントリではただ「他にも選択肢はいろいろあるよ」というのが言いたかっただけ。
前々から思っているが、人文系院生・ポスドクは能力と賃金のミスマッチがとてもひどいところなので、優秀な人材の草刈場としてもっと注目されていい。「優秀な人材を短期間、お手頃価格で雇いたい」みたいな需要に応えられる「掘り出しもの」人材は、まわりを見てていても結構たくさんいる。
もちろん、上で書いたようなやりかたが、はたして研究者としての生き方として良いものかどうかはまったくまったく明らかではない。小手技の賃金稼ぎをするよりも、国費留学や留学支援金をゲットして海外に行くとか、安定した給与付き研究員になってガシガシ研究するとかしたほうが、確実に研究は進む。
とはいえ、研究だけが人生ではないし、いろんな生き方があっていい。なんとか生き延びつつ、たまに地道で良質な研究をそっと出す。そういう研究者人生もあっていい。