各授業のレポートの採点がおおむね終わったので、いろいろと気づいたことを書いておく。以下に記した諸注意は、すでに履修者たちには送ったものだが、こういう注意点はどの大学でも共有可能なものだし、少しでも多くの目に触れるほうがいいので。
まず形式上の問題
- レポートの冒頭には「氏名、学籍番号、所属学科、学年、授業名、年度」を書きましょう。名無しレポートがたまにあります(表紙をつくるように指示する先生もいますが、わたしはどちらでもいい派です)。
- 特に「学科」や「学年」はコメントの付け方にも関わってきますので、書いておくほうがいいと思います。
- 提出するword/pdfファイルのファイル名は、少なくとも「氏名、授業名、年度」がわかるものにしておくこと。例:「Report_PopularCulture2019_NorihideMori」
- 「レポート」とか「美学」といったファイル名の人がかなりいます。これだと、他の人のレポートと区別できないので困るんですよね。
- あとあと(数年後に)自分でファイルを探しやすくするためにも、ファイル名はきちんとつけておきましょう。
※2019年2月1日16時追記:ただし、執筆者が誰かわからない形で採点する「ブラインド採点方式」をとっている先生もいます(むしろその方式のほうが望ましいのかもしれない。来年度は検討したい)。そういうケースでは表紙やファイル名に名前などは入れないように指示があると思いますので、それに従いましょう。
- ちなみに今年は平成30年度です。「平成31年度」と書いている人が何人かいました。
参考文献の書き方について
- 翻訳文献を引くときには、著者の名字で記します。ファーストネームで文献参照をしている人が何人かいました。
- ノエル・キャロルの2017年の文献を引くのであれば、「キャロル(2017)」と書きます。「ノエル(2017)」じゃないよ。
- また、本文中でほかの論者に言及をするときも、「ノエルによれば~」ではなく「キャロルによれば~」とします。日本人の名前をあげるとき「太郎によれば~」とはしませんよね。
- 文献の書き方はさまざまなスタイルがありますので、自分の所属学科の基本スタイルを踏襲してもらってかまいません。ただふつうは二重鉤括弧『』で論文を指すことはありません。『』は書籍を指すために使います。
例:ノエル・キャロル『批評について』森功次訳、勁草書房、2017年
- 文献表記の書き方に迷ったら、所属先でよく使われている学術論文の参考文献表をマネしてください。それが手っ取り早いです。
- web上のページを引いてくるときには、ページのタイトル、urlを書きましょう。
- C:¥Users¥Tanaka¥Documents¥test.txt、のような「ファイルパス」を書いている人がたまにいます。ファイルパスは、あなたのPC上でのファイルの位置を示すもので、urlとは違います。他の人がファイルパスを打ち込んでも、そのデータにはたどり着けません。
- 引用するときには、該当ページ数まで書きましょう。文献名だけ挙げて済ますのは不親切です。「本当に読んでいるのか(正確に読めているのか)疑わしいぞ」と思われないためにも、該当箇所を明記するのは大事です。
- 引用も言及もなしに本文を書いて、最後に取ってつけたように参考文献だけを挙げるのも、あまりよいやり方ではありません。「その文献はレポートのどの部分を書くのに役立ったのか」を分かるように書いておくのが望ましいです。
- 段落の末尾に注をつけて、「この段落の考察はキャロル(2017, 46)を参考にした」と書く手もあります。
文章の書き方のコツとして
- 「主語なし文」に気をつけましょう。論文中に、主語なしで「~と考える」のような文がいきなり出てくると、それを考えているのが誰なのかわかりづらい。
- 日本語は主語がなしでも成立する言語ですが、学術的な文章を書くときは、とくに表現上の工夫をする意図がないのであれば、基本は主語アリの文にするのが無難です。
- 「わたしはXに賛成/反対である」、のXが何なのかが読み取りづらいレポートがいくつかありました。たとえばウォルトンの意見をいろいろと説明したあとで、「わたしはウォルトンには反対である」と書かれても、彼のどの主張に反対しようとしているのかが分かりません。「わたしはウォルトンの〈フィクション観賞中の恐怖は文字通りの恐怖ではない〉という主張には反対だ」などと、Xの部分を文の形で書くと、議論がわかりやすくなります。
- 文章の全体構造を練ってから全体を仕上げましょう。よほどの天才でないかぎり、良い文章を冒頭からいきなりスラスラ書くのは無理です。
- いったん書いたあと、全体構造を把握したあとでもういちど書き直すことも大事です。「最終的に何が言いたいのか」「そのために必要な作業はなにか」「いま全体の中でどの部分を書いているのか」といったことを念頭に置きながら、読み直してみましょう。「この箇所で何を書かなければならないのか」「削っていい箇所はないか」などが見えてきます(全体の論旨から外れる「余談」は注に回す、というのはひとつのテクニックです)。
- くりかえし何度も言いますが、レポートは書き上がったら一晩おいて、翌日音読してから提出しましょう。日本語がおかしい部分や、論旨がおかしい部分を発見できます。
最後にアドバイス
- 大学生ともなると、文章が上手い人と下手な人とのあいだに、かなりの差が出てきます。
- 文章が下手な人の特徴のひとつに、語彙や知識が乏しいだけでなく、言い回しのレパートリーが少ない、という点があります。日頃からもっと本を読みましょう、というのは大前提ですが、ひとつ練習法をあげておきます。
- 手元にある学術文献、評論文などの中から、自分が読みやすいと思ったものを一つ選び、その文章の一文一文の文末表現だけ音読してみてください。そこからよい言い回しを学ぶこと。文末の言い回しを工夫するだけで、文章はぐっと良くなります。
- その後、今回提出したレポートをもういちど読み返しながら、もっとうまい表現に直せないか、書き直しの作業をやってみましょう(提出からすこし時間がたった今は、書き直しの良いタイミングです)。推敲作業は、文章が上手になるための良い練習になります。
なお、数あるレポート執筆本の中で今のところいいなと思ったのはこの二冊。
他になにかいいのあれば教えてください。
名古屋大学のアカデミック・スキルズガイドも良いです。
これはレポート執筆前というよりも、学期頭に呼んでおくべき資料だけど。
http://www.cshe.nagoya-u.ac.jp/asg/
あと戸田山『論文の教室』は名著だし面白いんだが、これを読める子はもうレベル高いのでなぁ、、、というところ。