昆虫亀

森功次(もりのりひで)の日記&業務報告です。

2014年夏学期レポート課題「美学I」「美学III」

非常勤先(文星芸術大学)での夏学期の授業が終了しました。
今期は休講ゼロ。がんばった。


今日は、美学Iのほうのレポート課題を紹介しておきます。
出した課題はこんな感じ。

美学I
授業中に説明した議論をひとつとりあげ、

  • そこでなされている主張の内容・背景・意図・動機などをできるだけ明確に説明し、
  • その主張について自分の考えを述べてください(そのさいは賛成or反対を明確に)。
  • さらに、その自分の考えに対して予想される反論をひとつ以上提示し、
  • 反論を退ける形で、具体例を提示しつつ自説を擁護しなさい

けっこう面倒くさそうに見える課題を出しました。
字数は自由。短すぎても全然構いませんが、評価対象となる議論の質は保ってください、と伝えてます。

何でこういう課題にしたかというと、「学生には先行研究を丁寧に批判するという訓練を受けさせるべき」と最近思うようになってきたからです。
テキトーなエッセイめいた論文書いてるひとたちは、おそらくこの訓練ちゃんと受けてないんじゃないかという気がする*1
この授業の受講者は大学の一、二年生だったので、あえてこういう形式的な課題を出しました。


この課題を通じて学生にやらせたかったのは、

  • 人の意見をその人のモチベーションからちゃんと理解する
  • 自分の意見をはっきりいう
  • 似たような意見や対立意見と比較しつつ、自分の意見をより精緻なかたちに練り上げる

こういう作業です。
こういう作業を求められることは、アカデミックな場だけでなく、おそらく人生のいたるところであるでしょう。
だったら大学の年度の低いうちからこういう訓練をしておいたほうがいい(ホントは中学高校レベルから姿勢だけでも教えておくべきなんだが)。
シンプルな「○○について論じなさい」というレポート課題にしなかったのは、こういう狙いがあったからです。考えるだけならバカでもできるし。



レポート課題を記したプリントには、これに加えていくつか注意事項を示しておきました。
そのうちのひとつはこういう感じ。

  • 具体例を入れてもらうのは、(1)議論をわかりやすくするため、そして(2)自分の頭で考えるため、です。議論をするさい、適切な具体例を挙げることができないということは、自分が何を言ってるのかよくわかってないということです。とりわけ抽象的な議論をするときには、具体例をちゃんと思い浮かべておくことが大事です。


これに加えて授業中に「具体例は他人が使っているものではなく、自分で適切な具体例を考えましょう」と伝えた気がします。
自分の主張にぴったり合う具体例を考えるのは実はかなり難しいのですが、良い思考訓練になります。ぜひやってほしい。
あと、自分で具体例を考えさせることでコピペを防ぐ、という狙いもあります*2



締め切りはお盆に設定したので、いまのところ提出しているひとはまだ数人ですが、けっこう良質なレポートが上がってきている印象があります。
楽しみです。



いちおう紹介だけしておくと、もうひとつの授業「美学III」のほうはこんな課題でした。

ひとつ以上の作品・作家を取り上げ、授業中に扱った時代・芸術運動に関係させつつ、批評してください。批評をするにあたっては、以下の作業を念頭に置くこと。

  • 記述description
  • 分類classification
  • 文脈化contextualization
  • 解明elucidation
  • 解釈interpretation
  • 分析analysis

この6つの作業はNoel CarrollのOn Criticism(2008)の議論を念頭に置いています。
これいつか翻訳したいんだよなー*3



あと最近読んだ本の中でこの本が良かったので紹介しておきます。
山口裕之『コピペと言われないレポートの書き方教室: 3つのステップ』
まぁ類書はたくさんあるでしょうし、このたぐいの本をあまり読んだことがないのでほかと比べての意見ではないのですが、けっこう良い本だと思いました。レポート書くときの姿勢や提出の仕方など、重要なポイントをけっこう的確に書いてくれてる気がします*4
とはいえ、ネット上にはレポートに関する諸注意は溢れてますけどね。どれか読んどけばいい気もしますが。ちょっと長いのが多いんですよね。
その点、この本はけっこう短いし記述が簡潔だったのがオススメポイントです。大学一二年生はとりあえず見とけ、という感じです。


あと、レポートをメール提出にしてたら、本文なしでファイルだけ送りつけてくる学生がけっこういたので、そこは新学期にちょっと注意するつもり。

*1:自戒を込めて

*2:この工夫は長崎外国語大の成瀬尚志さんから教わりました

*3:去年国際美学会で会ったソウル大の先生がいま翻訳してるって言ってたから、韓国版はそろそろ出たかも

*4:レポートのメール提出を説明するところで「「一学期間、たいへん有意義な授業でした」などとリップサービスをしておくのもよいでしょう」(p.83)と書いてるのは要らない気もするが。