分析美学の基礎論文集の翻訳をつくろうという計画が、ひそかに立ち上がりつつあります(まだ完全に確定ではない)が、どの論文を入れるか、ちょっと迷ってます*1。
なので、現時点でのプランを公開してみます(あくまで森個人案)。
「これは入らないの?」「これは要らんだろ」「それ入れるんなら、これ入れろ」などなどの意見をいただければ、幸いです。どんな些細な意見でも構いませんので。
わたしとしては「今ではいろいろと批判されているけども、やっぱこのトピック研究するのならこれは読んどかないとお話になりませんね」という論文を入れたいと思ってます。
つまりこの方針を採ると、たんに読みやすいまとまってる教科書的な論文は入れませんし、逆に、いまでは攻撃されまくってる論文が入ります。
(ただしホントにこの方針で行くのかはぜんぜん決まってません。今後の相談次第。)
その方針で、選定した候補が以下のものです*2。
トピックごとにまとめてます。(★マークは、俺なら絶対入れるぜ論文)
A plan for anthology of analytical aesthetics. Any comments are welcome!
まずは鉄板論文をいくつか
- ★Frank Sibley, 1959. "Aesthetic Concepts." Philosophical Review 68: 421-50.
- -----1965. "Aesthetic/Nonaesthetic" Philosophical Review 74 (2):135-159.
シブリーはどっち入れるか迷いどころです。わたしはAesthetic Conceptsでいいと思います。
これもどう転んでも、確実に入ります。
- ★Kendall Walton, 1970. “Categories of Art.” Philosophical Review 79: 334-67.
→翻訳しました。こちらで発売中。
芸術の定義関係はいろいろあって迷います。個人的にはDantoは入れなくてもいいかなーと思いますが、まぁ美学史的な重要性をどれくらい重視するかで入るかもしれません。ビアズリーのも、入るか微妙(良い論文ですが)。欲を言えば、レヴィンソンの一連の論文のなかからも、どれか入れたいのだが、そんな事言い出すとあれもこれも、という感じに増えていきそうなので困った。つーか、芸術の定義でもう一冊アンソロジー組んでいいんじゃないか。
- Morris Weitz, 1956. “The Role of Theory in Aesthetics”Journal of Aesthetics and Art Criticism 15: 27-35.
- Danto 1964“Artworld”Journal of Philosophy 61: 571-84.
- Monroe Beardsley, 1983. "An Aesthetic Definition of Art" In What Is Art? ed. Hugh Curtler. NY: Haven Publications, 15-29.
非西洋芸術
- ★Stephen Davies, 2002. "Non-Western Arts and Arts Definition" in Noel Carroll ed.Theories of Art Today.
贋作
- ★Mark Sagoff, 1978. "On Resorting and Reproducing Works of Art" Journal of Philosophy 75 (9):453-470
美的態度論
- ★George Dickie, 1964. "the myth of the aesthetic attitude" American Philosophical Quarterly, Vol. 1, No. 1: 56-65
フィクションと情動
- ★Kendal Walton, 1973. "Fearing Fictions" Journal of Philosophy 75 (1):5-27.
(これも批判は多いですが、その後の論争を考えると、これ読まないってのは考えられない。)
環境美学は、つぎのどちらかですね。
- Ronald Hepburn, 1966. "Contemporary Aesthetics and the Neglect of Natural Beauty" in British analytical philosophy.
- Allen Carlson, 1979. "Appreciation and the Natural Environment" Journal of Aesthetics and Art Criticism 37: 267-75.
芸術的価値
- ★Malcolm Budd, 1995. "Artistic value" Chapter1 from his Values of Art. widely reprented.
画像知覚、Seeing-inについて
- Richard Wolheim, 1980, "Seeing-In, Seeing-As and Pictorial Represntation" (postscript to Arts and its Objects).
(ウォルハイムは1998年のシンポジウムのやつもありますが、あれ難しいのでこっちかなー)
写真
- Roger Scruton, 1981 "Photography and Representation" Critical Inquiry vol7, 3.
(ウォルトンの透明性論文もありますが、どちらかというとこっちの方かな。悪名高い論文ですが。)
音楽はどれにするか。
- Roger Scruton, 1983. "Understanding Music" in his Aesthetic Understanding, and widely reprented.
- Jerrold Levinson, 1980. "What a musical work is" Journal of Philosophy 77, N0. 1.
音楽の存在論を活気づけた論文としてDoddは入れてもいいかもしれません。
- Julian Dodd, 2000. "Musical Works as Eternal Platonism" British Journal of Aesthetics 40: 424-40.
音楽の情動
- Peter Kivy, 1980. "How Music Moves" from his book Music Alone.
(Robinsonの1994の論文でもいいのですが、よりベーシックな論文という点でこっちを選択。)
不道徳作品
- ★Daniel Jacobson, 1997. "In Praise of Immoral Art" Philosophical Topics 25: 155-99.
文学作品の性格
- Jenifer Robinson, 1985. "Style and Personality in the Individual Work" Philosophical Review 94: 227-47.
芸術と知識
- Jerome Stolnitz, 1992. "On the Cognitive Triviality of Art" British Journal of Aesthetics 32: 191-200.
- Timothy Binkley, 1977. "Piece: Contra Aesthetics" Journal of Aesthetics and Art Criticism 35: 265-77.
あとザングウィルのフォーマリズムを入れるか問題
- Nick Zangwill, 1999. "Feasible Aesthetic Formalism" Nous 33:4
以上です。
まぁそもそも、わたしみたいなペーペーがひとりで目次決めるわけではないし、もっと上の方々の意見でぜんぜん違うものになるかもしれませんので、ぜんぜん違うものができても、悪しからず。
そもそも、誰がこの翻訳プロジェクトに参加するかすらまだ決まってないのですよ。
そして分量的に、ここに挙げた論文を全部載録するのもおそらく不可能なので、どれを落とすか問題がこれから悩ましいところ。
どうしましょう。
ともあれ、ここに挙げた論文は、どれもわたし自信を持ってオススメします。
とくに★つけたやつは、そのトピックに興味がない人でも、読んで損はないとおもいます。
だいたいの論文は、以下のアンソロジーに入ってますので。
Aesthetics and the Philosophy of Art: The Analytic Tradition: An Anthology (Blackwell Philosophy Anthologies) Peter Lamarque Wiley-Blackwell 2003-11-03 売り上げランキング : 192894 Amazonで詳しく見る by G-Tools |
では。ご意見・批判おまちしております。
*1:そもそもこの「分析美学」という名称にも問題はあります。最近哲学業界で「分析系vs大陸系」という二項対立が批判されてきてるというのもありますが、美学業界ではもっと前から「分析」って何よ?みたいな自己反省的な批判は業界内にずっとありました。そして、以下にならぶ論文をみればわかるように、もう現代の英語圏の美学者たちは言語分析や概念分析ばっかりやってるわけではありません。なので、ここではとりあえず「現代の英語圏で、分析哲学の影響下で、行われている美学」という感じで、ゆるやかに捉えてください。とはいえ、フランスにも分析っぽい議論をしてる美学者たちが一部にいるので(Morizotとか)、この定義に問題がないわけではありません。なにかいい名称はないものかー。
*2:ベースは、二年前にザングウィルがつくってくれたリストです。