美学会全国大会で発表します。
今回は、分析美学の道具立てを用いつつサルトル研究をやろう、という試みであります*1。
発表は、二日目の午後というなかなか良い場所が当たりました。いぇい*2。
発表要旨を掲載しときます。
（要旨通りの発表になるかはわかりませんが。）
「サルトル『聖ジュネ』における「不道徳作品」の善用」
森 功次（もり のりひで）
（東京大学、美学芸術学）1952年、ジャン＝ポール・サルトルは、ジュネについての長編論考『聖ジュネ』を発表した。裏切り、窃盗、男色を詩的技巧を駆使して描くジュネを論じた最後に、サルトルは「ジュネの善用のための祈り（Prière pour le bon usage de Genet）」と題された節を付している。ここで語られるのは、ジュネの不道徳的な小説を読者はいかにして善用できるのか、である。本発表は、芸術の倫理的価値に関して現代英米圏で行われている論争の成果を活かしつつ、ジュネの「不道徳的」作品に対するサルトルの評価を分析する試みである。
一般的にジュネの作品は「不道徳」な作品と見なされているが、実はその不道徳性は、そう明らかなものではない。たしかに描かれる行為は不道徳なものであるが、ジュネ自身はその不道徳的態度を推奨・是認しているわけではない。サルトルはジュネの作品のどこに不道徳性を見ているのだろうか。サルトルの考えでは、ジュネ作品の不道徳性は、不道徳的態度を美的に提示する点にある。ここには単に内容の不道徳性だけでなく、そうした内容を美的に提示することの不道徳性がある。
だが、サルトルは、この不道徳な作品を善用することができると考えている。ジュネの作品は、結局どのような価値をもっているのか。その価値に対して、作品経験はどのような関係にあるのか。不道徳作品の善用とは、結局どういうことなのか。
ジュネ作品の価値としてサルトルが挙げるのは、認識的価値である。ジュネの作品は、ジュネの「孤独（solitude）」――この言葉は、当の最終節を読み解くキーワードである――を、われわれ自身のものとして理解するために役に立つ、とサルトルは言う。とはいえ、この認識は、そのまま「正当化された真なる信念」として受け取られるべきものではない。ジュネの美的手法を通じて読者が得るのは、不道徳な存在についての概念的な認識（récognition）だけではなく、情動的実感（réalisation）に支えられた、自分自身の可能性についての理解である。
この倫理的−認識的価値は、作品の美的な体験に支えられている。本発表は「もしジュネの著作が私を感動させたのであれば、その著作が私に関わっているということだ。」というサルトルの一文に着目する。この「関わり」とはいったいなんなのか。倫理的に拒否したくなるような作品を美的に観賞できたというこの事実は、近年の英米美学の用語で言えば、想像的抵抗（imaginative resistance）が観賞を完全には阻害しなかったということである。この事実が、美的経験を通じて、読者に自分のもつ不道徳性との関わりを突きつけるのである。
この関わりそのものに倫理的価値を見出すにあたって、サルトルは自身が戦後構築した人類主義（humanisme）を前提にしている。他者との、そして人類全体との関係性に、ひとつの道徳的価値が見出されるのである。とはいえ、この道徳観を前提にした価値が、ジュネ作品の不道徳性をどの程度緩和するものであるのかは、実はそう明らかではない。本発表から最終的に示唆されるのは、この時期のサルトルの道徳観の限界と、芸術そのものがもつ道徳的価値の限界である。ここにわれわれは戦前のサルトルの個人的実存主義からの脱却と、戦後道徳思想の発展を見ることもできよう。
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その他の発表の要旨も、大会ホームページにアップされてます。
（http://www.sal.tohoku.ac.jp/estetica/bigaku62top.html）
よく考えたら、人生初の仙台です。
これでようやく政令指定都市コンプリートか！と思いきや、まだ新潟市行ったことなかった・・・。新潟はまだ苗場止まりなのでした。
新潟で学会ないかなー。
では。
仙台でお会いしましょう。
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