昆虫亀

森功次(もりのりひで)の日記&業務報告です。

授業課題用の採点用ルーブリックをつくってみた

先日受けた学内のFD研修会で、「採点ルーブリックを作るといいですよ」という話があったので、ためしに自分の授業課題に合わせて作ってみた。*1

 

「作品を批評しなさい」系の課題と

「人の意見を批判しなさい」系の課題の2つだ。

 

 

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「批評しなさい」系の課題

 

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「批判しなさい」系の課題

 

 

 

 

 

こういうものを配ると斬新なレポートが出てこなくなるかもしれないし、これに合わせてしっかり採点しようとするとけっこう大変なので、いろいろ問題も多いんだが、とりあえず実験的に運用してみるつもり。

 

先日学生に配ってみたところ「やるべき作業が明確になったので、作業がやりやすくなった」というコメントが多かったので、その点だけでも意味があると思う。

 

 

型にはまったレポートばかりにならないようにするには、Exemplary(A+)のところをうまく書く必要があるのだと思う。今回は実験的に、かなり高いハードルを課してみている。これは要領の良い学生がチャチャッと適当に仕上げて提出するのを防ぐためだ。

今まで教えてきた経験からすると、この基準を満たせる文章を書いてくる学部生はそうとう稀であり(大学院生レベルでも難しいと思う)、かなり能力が高い学生でもこの基準をサクッと要領よくクリアするのは難しいだろう。

正直、学部生に対する要求としては、すこし基準が高すぎるかもしれないと感じている。そのあたりは帰ってきたレポートを見ながら今後調整していきたい。

 

 

 

以下に、pdfとエクセルファイルを公開しておきます。

改変して使いたい教員の方はどうぞお使いください(授業改善策というのは皆で協力して手を抜けるところは手を抜くべき)。

「こういう点に気をつけて文章を書かなきゃいけないんだな」という点がわかる表にもなっているので、学生も見ておいて損はないかも。

運用しつつ適宜改善していきたいので、意見・コメント・改善案など頂けると助かります。特に同様の試みをやっている人がいたら、アドバイスいただけると嬉しいです。

8月下旬までにはこのルーブリックを使った課題採点も終わってると思うので、こういう授業改善策に興味ある人と、また意見交換などできるといいかなと思います。

 

 

「批評しなさい」系課題

美術の世界、採点ルーブリック.pdf - Google ドライブ

美術の世界、採点ルーブリック.xlsx - Google ドライブ

 

 

「批判しなさい」系課題

哲学と思想、採点ルーブリック.pdf - Google ドライブ

哲学と思想、採点ルーブリック.xlsx - Google ドライブ

 

 

森功

 

 

 

学生を思考にいざなうレポート課題

学生を思考にいざなうレポート課題

 

 

 

コピペと言われないレポートの書き方教室: 3つのステップ

コピペと言われないレポートの書き方教室: 3つのステップ

 

 

 

 

 

【追記】7/12日に一橋大学の哲学セミナーでレクチャー講演をすることになりました。

また要旨など出ましたら、ここでも宣伝します。

*1:FD委員会ではさらに「このルーブリックを各学部のディプロマ・ポリシーとかに合わせて調整していけ」ということが言われていた。

6/26(水)に代官山蔦屋書店でのイベント「ネタバレのデザイン」(with仲山ひふみ、松本大輝)に登壇します。

告知です。

 

代官山蔦屋書店のイベントに出ることになりました。

『フィルカル』の次号が「ネタバレの美学」特集号になっていまして、その刊行記念イベントとして仲山ひふみさん、松本大輝さんとのトークをやります。

 

次の『フィルカル』にはネタバレに関する論文が5本載るんですが、今回のイベントはそこでできなかった話題をもう少し掘り下げてみたいと思います。

 

 

トークイベント「ネタバレのデザイン」

6/26(水) 19:00〜

蔦屋書店1号館 2階 イベントスペース

 

 

詳しい情報は下のリンクをどうぞ。

チケットは『フィルカル』最新号とセットで買うといいんじゃないでしょうか(おそらく発行日を考えると先行発売みたいなかたちになるのかな)。

 

【イベント】『フィルカル Vol.4 No.2』(株式会社ミュー)刊行記念 森功次×仲山ひふみ×松本大輝トークイベント「ネタバレのデザイン」 | イベント | 代官山 T-SITE | 蔦屋書店を中核とした生活提案型商業施設

 

 

 

なお、昨年の秋に大妻女子大学で開催したワークショップ「ネタバレの美学」については、記録のtogetterも残っています。またフィルカル前号には、佐藤暁さんがこのワークショップについて7ページにわたる詳細な報告文を執筆してくださっていますので、そちらも御覧ください。

 

togetter.com

 

 

 

 

あと7月12日(金)に一橋哲学・社会思想セミナーに登壇することになりました。

セミナーのテーマは分析美学で、おそらく午後開催かと思います。

こちらでは理想的観賞者の話をするつもりです。詳細はまた後日。

 

人文系院生・ポスドクの(ちょっと変わった)サバイブ術

西村玲さんについての記事がすこし話題になってたこともあって、以下のようなツイートをしていた。

 

 

 

 若手研究者問題は世間的にも広まりつつあるし、ほんとうにどうにかしなきゃいけない問題だとつねづね思っている。残念ながら、とても優秀な後輩に対しても「まぁなんとかなるから進学しなよ」とは言い難いのが現状だ。

 

 ただ、ポスドクの生き方を「アカポスゲットかコンビニバイトか」みたいな二分法で捉える見方が世間に広がりつつあるのにはちょっと反対したい。院生・ポスドク時期には、皆けっこう工夫してお金を稼いでたりするんだよね。

 あと、なんだかんだいって優秀な人が多いので、おもしろエピソード多い(「それはアナタだからできたんであって、普通の人は無理ですよ」みたいな話も多いが)。

 

 

 というわけで、とりあえず自分が知っている(聞いた)生き延び方をいくつかまとめておく。こういう情報は人づてにはいろいろと聞くんだが、プライバシーの問題もあってあまりおおっぴらに語られることもないよな、と思うし。

 進学を考えている人にとっては、なにか参考になるかもしれない。

 ただもう一度言っておくと、こうしたサバイブ術には運や出会いなど偶然的要素が多分にからむので、せいぜいおもしろエピソード的に読むくらいのほうがいいと思う。

 

 

 では、いくつか紹介を。

 

塾(寺子屋)を開く

  • 塾講師、家庭教師は院生・ポスドクの常套手段だが、それをさらに発展させて、生徒を集めて寺子屋を開くという手がある。公民館などの会議室を借りて、そこに数時間人を集めて子供の勉強を見るわけだ。院生仲間が数人あつまれば、そこそこの数の子供を見れるし、個別指導も丁寧にできる、あと時間の融通も効く。
  • メリットは塾講師なんかよりずっと高給になること。生徒側の負担も安くできるので、うまくいけばwin-win関係を築ける。
  • 親御さんからの信頼を勝ち得たら、別途、家庭教師の仕事をもらえることも。

 

図書館司書・事務員

  • 大学図書館の業務は院生のいいバイト先。
  • 専門図書館だとほとんど人は来ないので、いい読書時間になることも。
  • 所属大学の図書館だと、通勤時間がかからないのもメリット。

 

研究委託

  • とある先生(研究室)から資料整理などのかたちで仕事をもらっている院生もいた。
  • こうした仕事をもらえるかどうかはほんとうに人によるし、下手したらパワハラの温床にもなりかねないのでいろいろとアレだが、それでも低賃金のバイトに時間を取られるよりはいいかもしれない。
  • あと学会事務局をやっている研究室であれば、そこから派生する学会事務仕事があったりもする。これは場合によってはそれなりの収入を生む。
  • 博論提出して学生の身分がなくなったあとでも、研究室事務員のようなかたちで教職員身分をもらえると、図書館・データベースなどの資料アクセス権がキープできる。

 

翻訳

  • 学術翻訳で稼ぐのはほぼ無理だが、商業出版のほうでうまく仕事がみつかれば、それなりの収入を得ることができる。
  • 翻訳すべき本を探すための下読み仕事、みたいなのもあると聞いたことがある。
  • 学術出版でも、依頼翻訳のかたちで驚くほどの翻訳料がもえることもあるらしい。
  • あと翻訳は、うまくいけば口コミで芋づる式に依頼が来る。とある遺族から「死んだ娘が外国語で書いた論文を翻訳してほしい」みたいな高額依頼もあったり。
  • 著作権料がかからない有名論文を翻訳してnoteで売るという手もある。小遣い稼ぎにはなる。

 

大学職員

  • ポスドク研究者を教育支援系部署で職員として雇用する、という話は最近よく聞く。どの大学もFDに力を入れる時代だ。
  • 教育支援系の仕事は、もとの研究分野と直結する仕事ではないかもしれないが、スキルを十分に生かせる仕事だし、職歴にきちんと書けるというメリットもある。
  • あとポスドクという身分に理解もあるので、他大学での非常勤講師の仕事を認めてくれたりもする。

 

  • リスクあるし、下手したら研究時間を大幅に削られるのであまりおすすめはしないが、株やらFXやらで学費を稼いでいる人がいた。その子は一時期「アベノミクス最高よ!」と言っていたが、、、

 

治験

  • 治験はバイトではないが、それなりの金額を得ることができる。
  • しかも入院中はそれなりに時間の融通がきくので、読書・研究が可能。最近はけっこう設備もきれいになっているらしく、規則正しい生活ができ、栄養ある食事が摂れる点など、利点も多い。
  • ただ、一定期間入院しなければならなかったりするので、授業や学会と重なる時期はちょっとやりづらい。あくまで副収入の手段か。

 

ポスティング

  • マンションとかの郵便受けにチラシを入れるアレ。
  • Podcastやaudibleなどを聞きながらやると一種の研究時間にもなるし、運動不足解消・引きこもり防止にもなる。
  • 時間の融通はめっちゃきく。生活リズムがめちゃくちゃの人にはいいかも。

 

議員秘書

  • 研究に理解ある先生に出会えれば、私設秘書になるというやり方がある。「いろんな分野の情報をまとめて良質の文章をすばやく書ける」という人文系研究者の能力は、議員秘書としてはけっこう重宝される。
  • きちんと仕事をすれば、公設秘書への誘いも(公設秘書になると、もはや研究はできなくなると思うが)。
  • メリットはいろんな業界の人と出会えるので、社会勉強になること。研究の幅が広がるかも。
  • 選挙時期と重なると、かなり忙しい。
  • ブラック体質な事務所も多い。

 

民間就職

  • 院進したからといって、アカポスにつかなければならないということはまったくないし、今は修士・博士号保持者がどんどん活躍してる時代。
  • 修士出て民間就職した先輩のなかには、大学院を出て数年後には「もう教授数人分くらいは稼いでるよ」と言ってる人もいた。うらやましい。
  • 最近は企業に務めながら学会発表してる人もめずらしくなくなってきた。民間就職するからといって研究生活が閉ざされるわけではないのだ。ぶっちゃけ無給・薄給の研究員として年数十万の科研費とるよりも、民間就職したほうが研究に割けるお金は多いのではないか。

 

 

 

 ひとまずこんな感じ。

 ここに書いたのはおそらく序の口で、探せばもっと驚きのサバイブ術はわらわら出てくると思う。

 とはいえ、まわりの院生・ポスドクの仕事をみるに、やっぱり数としては塾講師や企業でのアルバイトが多いと思うし、それが常套手段だろう。このエントリではただ「他にも選択肢はいろいろあるよ」というのが言いたかっただけ。

 

 前々から思っているが、人文系院生・ポスドクは能力と賃金のミスマッチがとてもひどいところなので、優秀な人材の草刈場としてもっと注目されていい。「優秀な人材を短期間、お手頃価格で雇いたい」みたいな需要に応えられる「掘り出しもの」人材は、まわりを見てていても結構たくさんいる。

 

 もちろん、上で書いたようなやりかたが、はたして研究者としての生き方として良いものかどうかはまったくまったく明らかではない。小手技の賃金稼ぎをするよりも、国費留学や留学支援金をゲットして海外に行くとか、安定した給与付き研究員になってガシガシ研究するとかしたほうが、確実に研究は進む。

 

 とはいえ、研究だけが人生ではないし、いろんな生き方があっていい。なんとか生き延びつつ、たまに地道で良質な研究をそっと出す。そういう研究者人生もあっていい。